──茨街とは異なる世界。異なる時間。異なるコトワリ。
そんな世界の断片的な記憶のカケラ。
人間災害によって廃墟と化した街。闇夜の帳が覆い尽くし黒で染め上げられたその場所で
火花が舞い、雷撃が走る、戦いの撃鉄が落とされていた。
「あンたさ!やっぱやるじゃン!思ったとおりだった!アタリだったッ!」
怒れる獣の鬣のように立った髪、後ろに流れる長髪は縛られて狼の尾のようである
全身、戦いの傷、動きやすく靭やかにかつ、強靭に鍛え上げられた筋肉は虎かチーターを彷彿とさせる
戦いに飢えた瞳は闇の中でも輝きを増し、相対する相手を捉え続け
その拳は確実な破壊力を乗せ、命を刈り取ろうと連撃を放っていた
「いやぁ、お兄さん。今日は用事があるんだけど、・・・帰してはくれないよねぇ」
「うーん、健康的な青年くん、君はヒーローかな?それともヴィランかな?」
涼し気な顔、とも違う、どちらかというと何もかもに興味のない、生気のない顔
そんな表情で、猛獣の拳を捌き続けている、白い男
強襲を受けている最中だというのに気の抜けた質問をする
「ヒーロー?ヴィラン?なにいってンだ?俺ァ腹が減っててな!」
「今日の獲物はあンたってだけさッ!糧ってヤツだ!」
白い男は、自分の周囲、もしくは対象の相手に絶対失敗を授ける能力を持っている
だというのに、その獣のような男は関係なく、実際にインファイトを繰り広げている
拳が届かない範囲に距離を取ろうとすれば、鋭く貫くような蹴りを見舞い、けして距離を離そうとはしない
常に自分の得意な領域から逃がそうとはしないその技量はそれだけで格闘の腕が推し量れる
「参ったねえ、どうなってるのかわからないけれど」
「君には僕の能力が効いてないようだね」
「うーん、困ったねぇ」
廃墟の中、足元の鉄柱や、天井からの瓦礫などを器用に避けながら、のらりくらりと動き回る
能力が通じていないのであればこれは圧倒され推されている状況ともいえる
「あぁ、どンな能力かは知らねーけどな!」
「関係ねぇンだよ、俺にはな!」
「何が相手だろうと殴ってブッ壊す!それだけだッ!!」
猛獣のような男の異能は、何らかの法則を以て確実に白い男の異能を封殺
彼の言葉を借りるならブッ壊されているのだった
「殴って、ね……、まさしくその通りなのだろうね」
「嘘とか誤魔化しとか必要なさそうだし、君の拳は異能だろうとなんだろうと」
「関係なく破壊する、そういうことかな?」
「まぁ、それなら仕方ない、こう見えてもお兄さん、結構鍛えてるんだよ」
「まだまだ若い子には……負けるわけにはいかないんでね」
震脚。相手の打撃に合わせ、足元の瓦礫を踏み上げ、返すように掌底を獣のような男の胸元へ叩きつけた
「──かッ!?」
一瞬の出来事だった。それまで押され続けていたように見えていた男は、たったの一手で状況を逆転させる。
総ての衝撃をそのままに自分の身体へと返された獣のような男は瓦礫を巻き上げながら吹き飛んでいき、廃墟の壁へと叩きつけられた
「──そうそう、これでも昔はヒーロー志望でね。」
「もう少し、鍛え直してから挑戦するといいよ、悪くはなかったからね」
白い男が言い放ち、踵を返した。