──茨街とは異なる世界。異なる時間。異なるコトワリ。
そんな世界の断片的な記憶のカケラ。
『ボクと組みませんか?』
そう声をかけてきたのは黒い髪、黒い瞳、黒い制服、まるで黒に染まったかのような中性的な容姿の少女
表情こそは笑顔であるが、其処からは掴み所がなく、虚無であり、深淵を臨むようにすら感じる
「お兄さん、そういうの受け付けてないんだけどなぁ」
「学生時代も集団行動ってやつはとても苦手だったしね」
「そういうわけでまた今度ね、お嬢ちゃん」
対象的に白い、皓い、枯れ木のような生気のない男は興味なさげに応えた。
パーカーのポケットに手を突っ込むと来た道を帰ろうとする
『──クリミナル・ユニオン』
『犯罪者の同盟、それがボクたちの組織の名前です』
『みんなでワイワイできるし絶対たのしいと思うんだけどなぁ』
踵を返した男へ少女は声をかける
可愛らしく後ろ手を組んでポーズを決めているがそれは誰へ向けてのものなのか
『あなたの知り合いも何人か参加してますし、同窓会みたいなものですよ、多分』
『アルバム持参してきたら結構盛り上がるかも?』
白い男は首だけ振り向き、困ったような顔をする
「君も諦めが悪いねぇ」
「同窓会は悪くはないけど今はちょっと忙しいんだよねえ」
「お兄さん、可愛い可愛い後輩にお熱なのさ」
「だから他を当たって欲しいなぁ、なんて──」
『──あぁ、その子、知ってますよ』
『なんていったってうちの次の標的ですからね』
間髪入れずに黒い少女が続けると白い男の表情がわずかに変わり
また少女の方へ向けて歩みだす
「詳しく聞かせて貰おうかな」
「その、クリミナル・ユニオンってやつさ」
手袋を外し、白い肌をした掌を顕にするとぎこちない笑顔を浮かべたまま
握手を求めるように手を差し出した
『それじゃあ契約成立ってことでいいのかな?かな?』
『ボクもこれで安心してお家に帰れるなぁ』
『いやぁ、見たいドラマに間に合いそうで良かった』
軽口を叩きながら少女は握手に応じ──
「──絶対失敗(ファンブル)」
一寸のちに少女はボロボロの姿で横たわっていた
不幸な事故があったのだろう
誰が見ても生存は見込めない状態だった
「邪魔はしないでほしいんだよね」
「これは警告だから、お兄さんの知り合いとやらにも伝えておいてね」
ボロ雑巾のような死体へ向かいそれだけ告げると今度こそその場から去っていった
──誰も居なくなったその空間で、死体が蠢いた
『あぁ~~~・・・痛いなぁ・・・』
『全く容赦がないよ、こんな可愛い女の子にね』
『こっちの能力も計算済みってところかぁ』
『流石にボスの知り合いなだけはあるね』
『はぁ、今からじゃあドラマは間に合いそうにないか、残念だなぁ』
『いや~、本当に、残念だ』
黒い黎い瞳は闇夜を見据え、ケラケラと笑いを浮かべ白い男の行く末を見送るのだった