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……
………
……一瞬意識が途切れるような感覚に襲われ目の前が暗転する。
……その後でゆっくりと目を開け、周囲を見渡す。
最初に飛び込んできた景色は見た事あるようでどこか違う歪な景色……。
……その少し後で例の榊という人物に声をかけられた、どうやらここがエディアンのワールドスワップの影響で招かれた『侵略の場』らしい。
……なんで私が『ワールドスワップ』や『エディアン』の事を知ってるのか…理由は簡単だ。
……
『私は……元々アンジニティの咎人だから』
『ハザマ』に来て少しづつ思い出してきた━━━
本当の私の名前は雪瀬 夏鈴、別の世界で……望んだ訳でも無いのに人為らざる力を手に入れて理不尽に追放された誰からも必要とされない"要らない存在"
別に自分を不幸とか…誰かを恨もうなんて思わなかった、周りからの怨嗟の声も蔑む視線も……それに混じる恐怖の感情も何となく理解できたから……。
誰だって自分達と明らかに異質のモノが近くに居たら怖いし、排除したくなるものだから。
それに多分イレギュラーなのだろうけど別の時間軸の私が一度向こうで他の人と接触した時の記憶もあり、少しづつ出来事を整理する。
黒髪の少女が自分に怒りを向けた事を忘れてないし、それを哀れに思って自分の心配をしてくれた緑髪の少女の事も覚えてる。
そして……いつかまた会う約束をした事も。
それが相手にとっても自分にとっても望まぬ形であることも。
……この場所だとイバラシティでの記憶とアンジニティの元々の記憶がある……
私にとってはアンジニティの…後者記憶が本当の私で前者の私はあくまで作られた記憶と人格…。
正直、イバラシティ側に付いた事を後悔してる。
最初は『侵略する』なんていう身勝手な行為が気に入らなくて『侵略される側』に付いたけど……。
イバラシティ側が勝てばそれは侵略する側の…アンジニティの敗北になる。
そうなれば……自分は『侵略の妨害』という目的を達成して向こうの世界とはお別れだ、最初はそれでいいと思ってた
でも……今は大事な人がいる、一緒に行動して楽しいと思える友人もいる、離れたくない居場所もある……。
『……今の記憶が作り物で…あっちの記憶がホンモノだったら良かったのに……』
向こうでの生活は自分が本当に望んでた何気ない日常そのもので…一番欲しかったものだ
でもいくらそんな事を願っても……そんな都合の良い事は起こらない━━━
『……みんなになんて言えばいいんだろう…?分からない…でも……』
今は目の前の『敵』を倒して知ってる人と合流しよう……。
戦うって決めたのは他ならぬ自分だから━━━
立ち塞がる相手が知り合いだとしても……躊躇しないって誓ったから━━
いつか本当の事がみんなにばれて━━━
向こうの世界の『大事な人達』からどんな目で見られても━━━
最期に『大事なモノ』が何も残らなかったとしても、全部が終わるその時まで━━━
そんな綺麗事を並べて自分に言い聞かせる事でみんなを騙してた罪悪感から目を背ける。
そうしないと……自分がどっちの世界の人間から見ても『敵』であり『裏切者』だって事を意識してしまうから━━━
「……今の私は機嫌が悪いから、だから………
まずはお前から殺す━━━。」
殺意と共に顕現するのは白の翼と黒の拘束布━━━『普通の人間』が決して持たない異形の力━━。
ごちゃ混ぜになった人格と記憶で混乱気味の自分を落ち着かせるように、目の前の『障害』に冷たい視線を向けてそう呟く。
『ハザマ』の記録:1時間目
『決着の刻』まで残り━━━ **時間