――目の前の時計台は、まるで満月のようだった。
それと、私の足元へ転がった血色の塊だけは、よく覚えている――
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咲那 「……クッソ、どうなってやがる…… おい、皆どこに……!」 |
訳が分からなかった。
夢でもみているのかと思った。
私はいつの間にか、私の知らない世界へ連れてこられていた。
名前を呼んだ。
さっきまで一緒に居たはずのやつらの名前を呼んだ。
でも、声は返ってこない。あるのは大きな時計台と、気味悪い男の笑みだけ。
私は少し、満月のような時計台の灯りを憎んだ。
私の目の前で、血の色をしたなにかが蠢いているのが、ハッキリわかったから。
あの男――たしか榊と名乗った――は、それを指してウォームアップなどと抜かしていた気がする。
でも、男の説明なんて、ほとんど耳に入ってなかった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ…………」
その"成れの果て"の嗚咽を聞いた瞬間――
「――ぁああああああああッ!!!」
――私は剣を抜き放っていたのだから。
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咲那 「チクショウ、ふざけやがって…………クソッ!!」 |
光の剣を、私の証を、死に物狂いで振るい続けた。
多分、頭が真っ白になってたんだと思う。戦いのことはよく覚えていない。
ただ、斬っても斬ってもまだ死なないって感覚が、とても強かった。
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咲那 「クソッ! 早く! くたばれ! 早く!!」 |
その時の私は気づいてなかったんだろう。
きっと、色んな種類の恐怖で頭がいっぱいで、グチャグチャになってた。
目の前の何かが一片たりとも動かなくなるまで、剣を振るっていた。
いや、動かなくなっても、その痕跡が消えるまで刻み続けていた……と、思う。
磨きに磨いたと思っていた心など、脆いものだと今になって感じる。
それでも、共に磨いた戦技だけは、私を裏切らなかったのは救いだった。
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咲那 「ハァ……ハア……! ……ッ、ハァ…………」 |
自身の足元を染めた赤色をしばらく見つめていた。
息も切らしてるのに気づいた頃には、だんだん身体の震えが止まらなくなってた。
嫌な汗がたくさん出てきた。凍りついた脳味噌が急に溶け出したみたいだった。
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咲那 「ハァ……ッ、クソ、探さないと……みんな!」 |
目の前の血溜まりから逃げ出すように、私は駆け出した。
私の知ってる人の名前を、片っ端から叫びながら、駆け回った。
青い光の剣を抜き放った、そのまま。
でも、その光だけじゃ、あるかも分からない道の先まで照らしきってはくれなかった。