レーネフィアは、椅子の上で足を組んだまま状態を逸らし、何事かを考える仕草をした。
それは、最近のレーネフィアの癖でもあった。

思慮する事は一つである。
自らの『親』である、始祖ディ・ステラ。
彼を狩る事に、なんら躊躇はなかった。　彼女に取っての親とは、彼女を育て、貴族精神を叩き込み、精神そのものとした祖父である。
それを真っ向から否定し、同質であるが故に相反する彼はレーネフィアにとって天敵であるし、彼にとってもそうだろう。

しかし、今は狩るのに力が足りない。
単純な力関係がどうなっているのかは掴めない（ドールを寄り代にしている以上その程度の強さなのか、あるいはそれ以上の埒外の強さなのか、全く掴めない。そして、『強さが掴めない』相手ほど危険だという事を、彼女は本質的に理解していた）が、単純な対決で勝利しても彼は滅ぶ事がない。
自らを呪い、不滅とした魂は、器を破壊した程度では消滅しないのだ。
対魂を目的とした攻撃も、魂を一度消滅させる事には成功しても、『呪い』によって魂はもう一度現世へと戻ってしまう。
まずは、この『呪い』を解呪する事から始めなくてはならないのだが……。

まったくゼロ、という訳でもない。
他の分割世界から一揆に参加する為にやって来た、世界渡り達から情報を集めてはいる。
が……。

ある時問いかけた冒険者の持っていた宝石。
妖魔を封じた、という破魔の力を持ったそれにレーネフィアは関心を持った。

そのような推測を立てたレーネフィアは、まず第一の目的をこう定めた。

椅子を立ち、窓辺へ足をかける。
――今の常宿にしている《タンポポ荘》は、空飛ぶ屋敷だ。
当然、見えるのは月の輝く夜空だが――
レーネフィアは窓を開くと、当然のように夜闇の中へ身を投じていった。




（久々の）きょうのうぃすぷさん

レーネフィアは、自分の周りをふわふわと飛び回る光霊をじっと見つめた。

この光霊は、旅の最初から自分について来ている。
それが不思議でもあった。
レーネフィアは、基本的にエンブリオ契約を血の摂取で済ませている。
血液を通じて、血を奪い取った対象から魂を操作し、主として刻み込むと同時に自らの影へ取り込むのだ。

ただし、この光霊はそのようなことはない。
ただ、ネクターを吸収してはレーネフィアの周りを飛び回るのみである。
……そもそも、ついて来るようになった原因とはなんだろうか？

その様子を眺めながら、溜め息を吐く人形が一人。

　――瞳が、揺れる。
　灰のように白い瞳が、揺らめいて――蝋燭のように、燃えた。

人探しなんぞしている竜なんて自分ぐらいかと思えば。
龍でも色々居るものだ……そんな感想。

想定外の展開に思わず耳も立つというもので。
しかし続く言葉に、冷や汗が背筋をつたう。

出て行ったというその龍人の事をひっそりと心配しつつ、

ポツリ、と了解の意をつげるのであった。

手を伸ばし、「正義」のカードをレーネの目の前にそっと置いた。