○月　×○日

　──とんでもないことになっちゃいました。

　いえ、特に困ったことになったわけでは……いえ、困ったことにはなったのですけど、悪いことがあった訳じゃありません。

　まぁ何があったかと言うと、アルラウネさんが恋をしてたってお話です。

　それだけならとても、きっと良いことなんですが、一つ問題があるような、ないような。

　……その相手が妖精さん、フェアリーさんだったんです。

　私にだってわかりません。
　……いえ、妖精さんは悪い人（？）じゃないですし、なんだかんだ面倒見が良いです。
　アルラウネさんとも、以前からよく一緒にいて遊んだり、色々（余計なことも含めて）教えたりしてましたけど。
　いくらなんでも、早くないかなぁって思うんです。
　こう、好きだとか恋だとか、そう言うのってもっとじっくり時間をかけてはぐくんでいくものなんじゃないかなぁー！　って思うんです。
　……って、言ってたら、ドライアドさんに、

　なんて大人な意見をもらって、揚羽ちゃんにまで、

　なんて言われてしまいました。
　……って、揚羽ちゃん恋人いたんだ！？

　判明した新事実に驚いたけど、何年も前に死に別れてるって聞いてすごく複雑な気持ちになりました。

　──ともかく。

　アルラウネさんは、何日か前から、妖精さんがほかの女の子……特にエンブリオさんや、他の一揆参加者さんにはしゃいでいたり、目を奪われているととてももやもやした気持ちになっていたそうです。
　そう言えばと思いだしたんですが、ちょうどその頃から、アルラウネさんの花がより綺麗になっていったような気がします。

　ドライアドさんに言わせれば、花を綺麗に咲かせるのは、花精にとっては最大級のアピールなのだそうです。
　アルラウネさんは意識的にそうしたつもりはなさそうですけど、無意識にそうしていたと考えると、すっごく好きだったんだなぁっていくら私でもよーくわかりました。

　だからもうどうこうって言うつもりはないのですけど、相手があの妖精さんだって言うのが本当に心配です。
　まぁ、アルラウネさんがとっても喜んでるからいいんですけど……。

　そんなアルラウネさんは、ようやく妖精さんに好きって言えてとてもすっきりしたみたいです。
　あれからもうずっと好き好きオーラ全快で妖精さんと一緒にいます。
　なんだか、すっごく甘いです。っていうか、甘々です。嗅覚的に甘いです。
　アルラウネさんから甘い香りが漂っててすごいです。
　ドライアドさんなんかは、幸せそうねーって笑ってますけど、ミニドラゴンさんやハニワさんや天使さんや人魚さんや（以下略）はみんな別のテントに避難していきました。目の毒だそうです。
　駄馬さんがすごく恨めしそうにしてましたけど、あれはなんかもうどうしようもないですね。ぶっ飛ばしたくなります。
　まぁ、そんな駄馬もドライアドさんもいつの間にか上手く抜け出していて、私は取り残されちゃったんですけど。

　そんな中、私と一緒に抜け出し損ねた月精さんがとても困惑してました。

　まったくですね。
　まぁ何割かは貴女のお陰なんですけど。

　いいえ、何もないです。
　それより、これからよろしくお願いしますね。

　そんなわけで新しい仲間もできました。
　人間（？）関係が複雑になっていく我が家のエンブリオ事情ですが、キャラの濃いみんなに負けないよう、がんばっていきたい所存です。

　……か、影薄くなんてないもん！


【その後の事】

「──うぅ、ようやく抜け出せたよ」

　テントから抜け出して、げんなりとした顔をする。
　まるで蜜につけ込まれたかのような気分のティアだった。

「ま、まぁ。良いことですし、ここは暖かく見守ってあげましょうよ」

　と、こちらもどこか疲れた表情。
　月明かりの精であっても、あの甘ったるい空間は多少なり堪えたようだ。

「うん、そうなんだけどね……。あーあ、なんだかしょっぱい物がたべたーい」

「はい、お煎餅でいい？」

　ティアがぼやくと、どこからともなく現れた揚羽が、煎餅と緑茶を手渡した。
　まだ慣れていない月の精だけが驚いた様子できょろきょろとしていた。

「……それで。揚羽ちゃん、どんな感じ？」

「そうね。あまり良い状況じゃないわ」

　言いながら歩き出す揚羽に、煎餅をかじりながらティアが続く。
　その後ろに月精が不思議そうについていった。

「群を二つ見つけたの。やっぱり、動きに意志を感じるわね」

「……ううん。『親』は見つかった？」

「まだね。けど、そろそろ無視できない規模になってるだろうから、もうすぐ見つかると思うわ」

「出来ればそうなる前に見つけたかったけど……難しいか」

　そんな二人の話に置いてけぼりな月精は、困惑したまま質問する。

「あ、あの。群ってなんですか？　もしかして魔物……？」

　その質問に揚羽もティアも、揃って苦笑した。

「そうね、魔物よりも、もっと面倒なものかしら」

「うん。だから早速だけど、力を貸してほしいな。頼ってもいい？」

「は、はい。よくわかりませんけど、わかりました！」

　ぐっと気合いを入れる月精。
　事情はわからなくとも、頼られると嬉しいようだ。

「……それで、一方は今、ミニドラゴンとユニコーンが対応してる。たぶんあの二人なら何とでもなると思う」

「だね。こう言うときは頼りになるし。もう一方は？」

「そっちはエンジェルとハニワが牽制してる。ドライアドも手伝ってるけど、あまり放っておくと危ないわね。二人はそっちを手伝いに行って」

「わかりましたっ！」

　ティアよりも早く、月精が返事をした。やる気十分と言ったところだろう。

「うん、わかったけど、揚羽ちゃんは？」

　ティアの問いに、揚羽は肩を竦めて足を止めた。

「実は、もう一つ面倒なお客さんがいるのよ。私はそっちを相手にするわ」

　立ち止まった揚羽が目を向けたほう……。
　足音と共に、実体を伴う奇妙な二つのヒトガタが現れた。

「ローバル……！」

　その、成体といわれる形態だった。

「な、なんですかあれ」

　戸惑う月精を揚羽が制し、前にでる。

「アレは任せて。二人はこのまま向こうに。この先の森に誘導させてるから」

「わかった。お願いね、揚羽ちゃん」

　そうしてティアと月精が去っていく。
　遠く木々の間からは、時折、ハニワの仕業だろうか閃光があがるのが見えた。
　それを見上げて、ふっと息を吐くと、揚羽はローバルと対峙する。
　その手には、一つのベルトが握られていた。

「……それじゃ、ヒーロータイムと行きましょうか」

　そして、勢いよくベルトを巻くと、右手に一枚のタブレットを構える。
　このネクタードライバーのキーアイテムであるＥ-タブレットには、揚羽が契約している大鷹のエンブリオの魔力が宿っていた。

『Standing by...』

　ベルトから電子音が響き、そして、

「変身」

『form Falcon. Complete』

言い終えてから、ごめんなさい、と謝り。

家族の話が出てくると、樹が抜けたように表情が緩んで、ふぅと息を吐きます。

だから、ヒトとたくさん話したいわけで、と、ぼそぼそと。

そちらの方の用件だったのでしょうか、と首を傾げて。

それに、と付け加えて。
メリファンさまのお知り合いなら、どのような方かわたしも興味があります、と、言いました。

コン、と籠手で鎧を叩きつつ。