先日共闘した友人から貰った「馬肉」について思い出す。
あの肉を受け取る時、グレンダは意外そうな、それでいて少々バツの悪そうな顔をしていた。

それは、メルンテーゼに来てすぐに実感したことでもある。

薙疾が育った世界では、じゃがいもは歩かないし筋肉はない。
魔法なんてものは絵物語でしかないし、モクのような人間とは違う人間…亜人も実在しない。

それがここには存在する。

そのどちらであれ、彼女は彼女の世界観に沿って拒否感を抱き、馬肉を持て余していたのだろう。

これ以上はグレンダの世界を知らない薙疾には、何を考えても想像の域を出ない。
覚えていたら、次の機会にでも聞けばいいか。

そう結論付ける。

言語を扱うのには、ある程度の知能とそれによって形成される文化と教育が必要なはずだ。
知能はともかく、文化を築いているらしいエンブリオはそう多くはなかった。

となれば、魔法かネクターか。
薙疾には分からない力が働いている。


そもそも別の世界から召喚された者同士で言葉が通じる時点で、何かの力が働いているのは間違いないのだろう。
問題は……その力が、何故エンブリオにまで適用されているのか。

気のないような返答を返す薙疾。

薙影の答えには納得が行ったものの、その代わりに新たな疑問が浮かび上がる。





それなら──自分たちが野良と呼んでいるエンブリオは。
　　　　　　　　　　　　　　一体、誰と繋がっているのだろうか？

突然の声に振り返ると、そこには先日出会ったアムルイがいた。
彼女は笑顔を浮かべて、君に礼を言う。

どうやら喜んでもらえたようだ。
お裾分けのお返しではあったが、こんなにも喜んでもらえると気分がいい。

そう言って彼女は、腰元の道具袋から何かを取り出す。
お返しだなんてそんな、申し訳ない。
だけど貰えるものは貰っておこう。馬肉美味しかったし。
今度は何かな、と期待しつつ君はそれを見る。


そこには、丸々と太った芋虫がいた。


…………え？
叫ばなかった自分を褒めたい。
これも修行の賜物か。サンキュー親父、でも現実これだよ畜生。
というか、これを食えと仰るのかアムルイは。
タンパク質も脂質もビタミンも豊富だよと言わんばかりのこれを。
体には良いかもしれないけれど、心にはたぶん悪影響しかないこいつを。
何が恐ろしいって即効性。影響は直ちに出る。たぶん吐くか泣く。
あ、そうか冗談だよね？　と期待してアムルイを見る。

やべぇマジだコイツ。
つーかこの場で食わせる気だ。
これが異文化交流の真髄か。なんて修羅道だ。
グレンダ、あんたは序の口だったよ。
ただのお裾分けじゃなくて、お返しだから気合入ってるんだ。
その気合が本当に勘弁してもらいたい。
異文化はもっと、マイルドに触れ合うべきだと思うんです。

ごめんなさい、そんな目をしないでください。
わけの分からない罪悪感が、手を伸ばさせるんです。
……あ、ダメダメダメ。
ダメだって。ちょっとこれ、ブニョっとしてる。ブニョって。
なんかもう、その弾力がこれは食べ物じゃないって主張してる。
いやでも食べないとダメなんだろうなぁコレ！
ちょっと腹くくって、行ってみるかァ――――！？

チハヤの言葉にグレンダも気まずそうに答える。
思ったより力が出なかったばかりか、新しい技を試した時に味方に間違って当てていたことを思い出していたのだ。

そして少しの沈黙の後、

そう笑いながら話している。しおらしいチハヤというのが珍しかったようだ。

（トーナメント表を見る）

ファイは自分の気持ちを正直に、あなたへ伝える。

モクラはただ、相手を見つめている……