《十通目の手紙》


ヒトの交流の経験は、巣のための交渉のための進化をしたわたしにとって、とても重要なものです。

攻城先のキャンプや、買出しに立ち寄った村、一揆の合間に機会を見つけて、たくさんのヒトと交流をさせて頂いています。
住居としてお借りしている部屋にも、仲のよくなったヒトや、隣人をお呼びして、友好を深めるようにしています。

幸運なことに、まだ、危険な目に遭ったことはありません。
そうした相手は、できるだけ避けるようにしているので、そのおかげでしょう。

・・・・・・お母さまは、そうやって相手をえり好みするのは、つまらないことだと思うかもしれませんね。


そういえば、お話した人の中に、一人、とても気になる子がいました。











わたしは、ある程度、話している相手のことがとてもよく分かる。

それは例えば、呼吸とか、体温とか、筋肉のわずかな振動とか、胸の鼓動の速さとか。
いつもフードの下に隠している、二対の触角と、三対の瞳が、そういうたくさんののサインを、逃さずわたしに伝えるのだ。

生まれつき、そんな風だったから、意識してそれを止めるのは苦手だった。

わたしが話している相手は、ゆえ、という。

獣の耳と尻尾を持った、小柄な少女。
人懐っこい仕草と、甘えるような声は、わたしから見ても、とても可愛い女の子だと思う。


だけどわたしは、その女の子が怖いと感じた。


それは例えば、表情と声に、鼓動や呼吸、体温がまるで合っていないところ。
ふだんから、それらを読み取りながら会話しているわたしには、それが、ひどく歪に見える。

だけどそれは、わたしが怖いと思った、本当の理由じゃない。

もっとずっと深いところで、わたしは、彼女が自分にとって・・・とても、危険なもの、だと、知っていたのだ。

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わたしを産んだお母さまは、尽きぬ飢えからくる蜘蛛たちの共食いを、はげしく嫌っていた。

だからこそ、お母さまは、蜘蛛の王国が必要だと考えていたのだという。
豊かな生活を約束する王国、故郷があれば、一族は飢えることはなく、同族同士で食い荒らそうこともなくなると。

お母さまは蜘蛛の王国を作り、わたしの兄弟、姉妹たちは、同族同士で争うこともなく平穏に暮らしている。
巣の中に作られた、小さな王国だけれど、わたしたちを守るには十分なものだ。


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だけど、人間は、飢えていなくても、共食いをするのだ。


例えば、虫けらを踏み潰すときに、強者としての優越感に酔うように。
例えば、武器を振り下ろしたとき、鉄を伝って手に感じる、引き裂いた肉の感触に奮えるように。
例えば、壁一面に並べた捕虜たちを前に、腕の一振りで、武器を手にした兵士たちに、処刑の命令を下すとき。

人は悦びのために共食いをする。


わたしのなかに埋め込まれた、旧い記憶が告げている。
擦り切れた紙に描かれたような記憶なのに、それででもそれらの記憶は、わたしのなかに焼きついている。



蜘蛛は、そんなことを想わない。
わたしの中にある、人の血こそが、わたしにそれを告げているのだ。

もし、わたしが自分の衝動に任せて生きようとすれば、わたしはきっと、人を殺すことを、楽しいと思うようになるだろう、と。

わたしが半ば強引に別れを告げると、その子は気にした様子もなく、笑顔でそれに応えて見送った。

背中を向けて立ち去ったわたしを、あの子はどう思っただろうか。



わたしがあの子を危険だと思った理由は、たぶん《そんな気がしたから》としか言いようがないものだ。
自分の感覚を総動員させて、その理由を探っても、きっと見つけることはできないと思う。


もしも、その理由を、もう少し具体的な言葉に直すのなら、こうなる。





わたしはあの子に、自分の中にあるものと、同じものを感じたのだ。

笑顔を見せてくれた相手に、嬉しそうに応える。
虎鬼に関する話には、なるほど、と手を打ち。

どこに持っていたのか、紙と筆を取り出し、さらさらと何かを描きだす。
間もなく、「できた」という言葉と共に、アムルに差し出した紙には──

頭部に一対の大きな角を生やした、異形の人型が描かれていた。

とはいっても、と更に続け

そのせいで、中々パッと見で鬼とわかってもらえないんですけどねえ……等と、小さく呟く。
頭の上では、虎模様の耳がちいさくぴこぴこと揺れている。

土地管理、という言葉に対する相手の反応には、少し首をかしげる。

力になれそうにない、という言葉に対しては、特に残念そうな事もなく

尊敬のまなざしで見られて、なんか顔がゆるんでいる。

（別の時間で別の場所で別のシーン）

ちらりとノノさんを見る

(小首を傾げながら―)

(ピコピコ触角を動かしながら―)

噛み締めるように、そう言葉を紡いで。
優しげに、少年の口許が緩んだ。

　　そう言いながら、アムルちゃんの頭の上からチューチュエを回収する

　　チラッ

　　そう言うと小嵐はゆっくりとした呼吸と、ゆっくりとした動きで
　　流れる様に移動し、身体をゆらりと半回転させる

　　そう言って、小嵐は近くにある石柱に向かって先程と同じ動きを行う

　　…見た目はただの背中からの体当たりに見えた
　　しかし、ズドンという音と共に

　　その石柱は吹き飛んだのだった

男はそう思考すると瞬時に思考と態度を取り繕う。
慣れた思考の切り替えだけに傍から見ても早々に気づけるモノではないだろう。

口調はどこか砕けているもの親しみ易そうではあるだろう。
しかして、どこか傲慢――不遜な態度は接客と言うよりは普通の談話に近しい。

　　あなたの姿を眺めて、静かに目を伏せる

　　一通り答えた貴方に、表情を変えぬまま小さく頷く

　　左手に掬った黒色の尻尾が、蛇のようにうねり、スルリと落ちる

　　貴方の言った事を確かめようとしているのだろうか
　　意味のないような事を問いかけてきた

そういうと、頭を撫でていた手をおろしました。

もしその手が触れたなら、
青い蝶は光の粒となって消えてしまうことでしょう。

　
　　　　　 少し後ろ向きに感じられるかも知れないけどね、と笑いつつ。
　　　　　　 世界移動者らしい生き方の知恵、と言うものなのだろう。

　
　　　　　 我慢できなかったらしい。
　　　　　　 二人の様子を眺めて貯まらず、カレー妖精を今まさにつつかんとしている。

　
　　　　　 子供なんかも居ないしねぇ、と苦笑いしつつ。
　　　　　　 僅かに掠れた声の響きが、目の前の女の年を更に解らなくさせている。

背中を向けて足早に立ち去る様を見送りながらひとりごちていました。

後日。
以前と変わらない格好で駆け寄るとにこやかに話しかけてくる姿。

ま、危険って言われてただけだけどね☆なんて呟きながら笑ったりしながら続けます。

おどけるようにくすりと笑いました。

クマのぬいぐるみが、応援をするように腕をぱたぱたと動かした。

人外横丁に居る時とはちがい、蛇の下半身は人間のそれになっている。

お辞儀に合わせてあたまを下げると口を開いた。

念押しされるように言われ半ば困ったように頭を掻きながら