■Memory...

単身突破が難しいと聞いた地点で、臨時に人を集めて共闘した折。
幾つかの共通項から、意気投合した黒髪に黒い瞳の小柄な少女。

今迄一人旅で、誰かと共闘するのは初めてだと言いながらも、陽気な気性で不可思議な連れ――あれらも“エンブリオ”の一種だろうか――と共にこの一揆に参加しているという彼女は、セルシアという名だと名乗った。

無事に一戦を終えて祝杯でも、と杯を交わしつつ聞いた話の断片によれば、
行き倒れていたところを酒場のおかみさんに拾われ、そこで働かせてもらっていたのだそうだ。

そして拾われたとき唯一身に着けていた品――異国の文字が刻まれた首飾り――を頼りに、記憶を辿る手がかりを探しているのだと、大切そうに首から下げた品を見せてくれた。

それ以外に、己の事を知る術がないのだと。
――「記憶」が、無いのだと。

あちこちの異世界を廻ってきた自分は、本来予備知識的に広域世界の文字を判読出来るはずなのだが……類似しているものは知っていても、其処に刻まれた言葉の意味を正しく読み解く事は出来なかった。

役に立てずに済まないと言っても、彼女はさして気にした様子もない。
ただ……思いだそうとすると、頭痛がするのだと口にした折は、さすがに日頃明るい表情に少し影が差した。
少しの沈黙のあと、ポツリポツリと不安を口にしだしたので、しばらく話を聞いてやっていた。


急いではいない。
……けれど、ここのところ妙な夢を見たり、戦いの最中に説明しようの無い感情や感覚に襲われる事が度々……。
自分を守るためにも、知らなきゃいけない気がする。
……でも本当は、知る事が少し怖くもある………。

話しだしたら止まらなくなった様子であったが、ひとしきり話すと彼女は照れくさそうに笑った。

「シェリィさん、話しやすいんで愚痴っちゃいましたよー……でもすっきりしました。ありがとうございます♪」

そう礼を言った彼女は既にいつもの表情に戻っていた――。

+++++ +++++

“忘れるのと忘れないでいるのは　どちらが幸せなんだろう――”



“アイツ”が一度ではなく口にした事のある台詞を、再び思い出す。


「……記憶、か」


早朝の定期的な鍛錬を一通り終えて、長剣を腰の鞘に収めてから。
夜明けの空を見上げつつ、黒髪の少女との遣り取りを思い出しながらシェリィは小さく息を吐いた。


「……私が例外みたいなものだからなぁ……だが、アイツにせよ、あの子にせよ。思い出せないで居るのがしんどそうなのを見ると……思う所はあるね」


“アイツ”のそれは、理由あっての事で。
セルシアという名の少女のそれとは多分、根本的な部分が違う。

そして……思いだそうとするのを阻害するものがあるのならば。
何らかの制御機構のようなものが働いているか――“***”のように、ある種の魔法のようなものが関与しているのか。


「他人事に関わってる場合じゃぁないんだが……行き先や目的が合致する間は、会話下手な私でも話しやすい、すっきりするってなら聞いてやる程度は出来ないでもないけれど。あの記憶喪失とやらの原因なりがちょいとでも判明すればいいんだが……その辺り、アークはどう思う？」


基本一人旅を続けてきただけの技量を認めてか、セルシアという名の少女と同じ目的地へ向かい、共闘するのはレシュも異論を唱えたりはしなかったので、今後何処かで顔を合わせる機会もあるだろう。

シェリィの呼びかけに応じてふわりと腰の長剣の神聖石から浮き出た少年妖精姿の神聖霊は、難しそうな顔をしている。


「……確かにマスターのような例は兎も角、異界同士を移動した者が記憶に欠損が出る例等も見受けられるな。手がかりの品の文字を見れば異界からやってきた可能性は高かろう。このメルンテーゼなる世界の文字と違うのならば。だが……それこそ記憶を取り戻す事が本当にかの存在にとって幸福なのかは、我が偉大であろうとも判断しかねるな」
「そりゃそうだろうけどさ。こう……さすがに自分の名前すら忘れてるとか、我が身に置き換えて考えてみたらちょっと……あんな小さい子がよくやってるなぁ、って思いたくもならないかい？」
「……データによれば、強い衝撃を与えれば記憶は回復する例があるそうです。シェリィ殿が、全力で殴打して差し上げてみてはどうでしょう？」


またもや何処からともなく話を聞いていたらしいレシュが、斜めな方向な意見を挟む。
シェリィは無言でつかつかとレシュの側に歩み寄ると、その頭頂部に割と加減無しで拳を振り下ろした。


「お前は何でもデータデータ、って、いい加減なことばっか言ってるんじゃないよ。いっそ殴られてお前が記憶喪失とやらになってみるかい？」
「…………それは困ります。確かに逆のケースで強い衝撃で記憶を喪う場合もあるようですから」


相変わらずあまり表情を変えないで言葉を返しつつも、さすがに少々痛かったのか拳の当たった部分をさすっているレシュの様子を横目に。


少しずつ秋の気配深まる風を全身で受けながら。
左右色違いの瞳で明け行く空を見上げながら。

先日共闘した仲間の手で綺麗に修繕された、銀の懐中時計のような形状のロケットペンダントを取り出して眺めてみる。
微かに揺らせば中で何かが触れる涼やかな音が響く――それは、時計のパーツではないものだった。


“……私は、あの問いかけにちゃんとした答えを返してやれる時が来るんだろうか。――間に合うんだろうか……”


■今回の日記にはセルシアさん（1802）を拝借しました、有難うございます■

腕の蔦を目をやりつつ、首を傾げる。

アークが聞いたら煩い の一言に、またげんなりした顔を見せ。

　
　一方、ロウは若干呆れたような様子でシェリィを見つめた。
　

紳士などという言葉には縁遠いため、くすぐったげな感覚を隠すように肩をすくめた。

（自分に向かって発せられた『気』に反射的に身構えそうになって、すんでで腹の辺りに力を込めて受け流した）

（種族よりも個の性質が大事だときっぱり断じる相手に小さく笑うと、同意すると軽く頷いた）

（せっかく綺麗な鉱石なんかもとれるし、と、自分が変わり種なことも認めつつ鉱業が栄えていることを肯定する。
そして、なんの気なしに渡した己の得物に目を輝かせてばかりの相手に、先ほど『気』を放たれたときとは別種の圧力を宥めるように両手を挙げて数歩下がった）

（二人のやりとりに和みながらも、握った剣を持つ手は緊張したままである）

（女性に色気を求めない、ある意味で失礼なタイプだが、この場合は吉かもしれない）
※け、結構まとめてます…！！！これでも！！！

　ジャックは真顔で言い訳未満の言い訳をのたまった。

　ジャックは話しながら追加でグラスを取り出した。着々と酒盛りの準備が続く。

　瓶によじ登って栓を抜き、身体全体を使ってグラスに酒を注いでいる。

考えても見なかった…という表情で首をひねる。

ほろ酔い加減も手伝ってひたすらにこにこしている…