砂地の探索を始めて、数日が経とうとしていた。
しかし… 目的の地下牢への入口は、一向に発見できない。

噂によれば、砂地に立ち入ってすぐの場所にあるはず…なのだが。
こうまで日をかけても見つからないのは、私の歩みがよほど鈍いのだろうか…？

急く心も露に 足取り気忙しく、砂漠の荒野を黙々と進む。

ちらりと時折 振り返り、後ろから付いてくる その姿を確かめる。

あの一件…　砂地の生物に敗走して以来、先生との会話は目に見えて少なくなった。
私の所為で危険な目に遭わせたも同然なのだから、機嫌が良いはずもない。

あんなことがあったにもかかわらず、行軍にさしたる文句も言わずに
付いて来てくれているだけでも感謝しなければ…とは 思っている。

けれども…



　　………。



　　………。



　　………。



　　………。



　　………。

しばらく歩いていると、突然、先生に呼び止められた。

訝しんで立ち止まると、浮かない顔で駆け寄ってくる先生。

先生は、こちらを見上げるも、視線を彷徨わせて
何事か 言い辛そうにしている様子。

行き交う人々の数が日毎に少なくなってきているのは感じていた。
しかし、まさか そんな…

先生の推測は、俄かには信じられなかった。いや…信じたくなかっただけかもしれない。

けれども、そう考えれば確かに辻褄は合う。


これだけ探しても、地下牢への入り口が見つからなかったこと。
日が経つにつれ、人々の往来がどんどん無くなってゆくこと。

振り向いて、自らが辿り来た路を眺める。
砂に付けた足跡は、さらさらと崩れ行き埋もれてゆく。


そこには、何もない 枯れた土地が、ただ広がるのみ。

もはや、声にすらならなかった。




全身から力が抜け落ち、その場にがくりと両膝を付く。

いたずらに焦るばかりで、肝心の探索は一向に進まない。
意気込みが空回りするだけで、ひとつの成果を得ることもままならない。

数日前の 『もう少し落ち着け』 という先生の言葉が 圧し掛かる。

肩を落としてうなだれると、その拍子にはらはら 雫がこぼれる
拭う気力もおこらず、頬を伝って流れゆく

ぽたりぽたりと地面に落ちるも、
乾いた砂には染み痕を残すことすら叶わず、たちどころに消えゆく 涙












ふっ…と、唐突に日差しが陰る。

振り返ると、そこには大きな日傘を差し掛ける先生

少し 呆れたような、少し 困ったような…
けれども、どこか穏やかな笑顔。


それに、その笑顔に、私はただ 頷いた。






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差し出されたのは、グレープフルーツとパイナップルのスムージー
岩陰に腰を下ろして、照りつける太陽と吹き付ける砂埃を避ける。


結局、これ以上探索を続けても無意味と、一旦砂地の探索を切り上げることにした。
先程と比べて いくぶんか落ち着きは取り戻したものの…　正直、いまだ気持ちの整理は付かない。


先生から受け取ったスムージーを口に含む。

グレープフルーツの酸味と、パインの甘み
そして仄かに香るジンジャーの風味が、歩き疲れた身体に染み渡る。

けれど…

それを素直に楽しめるような心境では、到底無かった。
礼を言うこともできず ぶすっとした不機嫌な表情のまま、黙々とスムージーを啜る。


思い通りに探索が進まず、不貞腐れているだけだというのは判っている。
不甲斐ない自分への苛立ちを隠す、理不尽な八つ当たりだというのは判ってる。

先に声を発したのは、先生の方だった。

話を終える前に、先生が口を挟む。

長い　沈黙。

先程と同じように、途中で先生が言葉を遮る。

こんな場所にずっと居てると、毛艶が悪くなっちゃうのです！ と、おどけた調子で走って行く先生。


私はゆっくり立ち上がると、その後ろ姿を追いかけていった。

よろしく頼むとばかりに、片手を軽く上げて見せて

（きつねさんの事が知りたいか、という問いにこくり、と頷く少女。
が、続いた言葉には人形めいた表情に、微かに感情が浮かぶ。それは……困惑、だろうか）

（続く飼育キットの説明と一連の何だか慣れた挙動に興味津々の少女。
差し出されたそれを見つめながら）

（一時的に魔術空間を展開……いや、封印解除が前提ならやはり許可を貰わないとならぬか……と、ぶつぶつ呟いている。
興味はあるようだ……年頃の少女が興味を持つにしては色々間違っているような気もするが）

シュガーは怨霊と会話をしています…