結局あれはいいきっかけだった。


周囲の大人は医者だ坊さんだと慌ただしそうにしていたが
その時のおれは右往左往する彼らを他人事みたいに眺めるだけ。

そもそも何度鏡を見てもそこにおれは居なかったのだから
みたい、じゃなくて、実際他人事で正解だったのかもしれない。

生まれた時からの付き合いだった黒い髪は見る影もなく
陶器のようにのっぺりとした白い肌は血が通っているかすらも怪しい。
狭くなった視界の中で見るその誰かは、別人を通り越してもはや人には見えなかった。

"少しでも血色が良く見えるように"と勧められるがまま、上瞼に紅を乗せれば、それは尚更。

声が小さくて、泣き虫で、自己主張が苦手で、一人だけでは何もできない。
そんなみっともない人間なんて、最初からこの世に居なかったかのようだった。



















中学に上がってから朝の日課が増えた。
前髪を作って、片耳を飾って、爪に色を塗って、目尻に紅をさす。















それはなんだか、
なんとなく捨てられずにいた古いおもちゃを
真っ黒の大きなゴミ袋に入れていくような

















そのときの感覚に　少し似ている気がする。

▲	バツ 「え？　うん。 　全力疾走してくる上にヤバくなると爆発する緑色の草みたいなオッサンだけど……？」

	情報量の大洪水である。 薬物濫用者の如き妄想を宣う少年の表情は、至って真面目であった。

	バツ 「おー、おかえりー。 　……あ、何。そういう感じ？ 　なんだよ、それならそうと早く言ってくれっての！ 　――や、一瞬まじで焦ったぜ」

	バツ 「疑われても仕方ないと思ってたからさ」

	バツ 「――って、なんだよ！　しっかり疑ってもいんのかよ！ 　ま、でもさ。案外それくらいのスタンスが丁度いいんじゃね？ 　もしかしたら……正体を隠す侵略者だって、戦いたくない相手がいるかもだし」

	バツ 「ただおれは間違いなく全力疾走してくる上にヤバくなると爆発する緑色の草みたいなオッサンではねーから！！ 　断固として全力疾走も爆発もしないし緑色の草じゃないコトを主張していくから！！！！」

▲	フタバ 「おう、わかった」

	フタバ 「ハレ高にもばっちりアンジニティが入り込んでやがる。 こっちからも共有しとくぜ。よく聞けよ」

	フタバ 「樒先輩、姫宮先輩、ザク先、そして」

	フタバ 「宗像先生だ」

	フタバ 「ま、先輩もザク先もこっち側についてるみたいだけどよ 宗像先生は、わかんねぇ……」

	フタバ 「あと裏辺が、あっち側についてる。 アンジニティの奴じゃねぇけど、俺たちの敵だ。」

▲	安嗣 「――そう？　オレは割と考えちゃうんだけどなぁ。 　ゲームで言うルート分岐って言うかさ。 　持ってる記憶とか体験が違えば、それはもうオレであってもオレじゃない別人、みたいなね。 　ま、人それぞれで全然いいと思うけど。」

	安嗣 「そういや雀部は誰か知り合いでアンジニティの奴とかには遭遇した？ 　たしか連中って向こうでもこっそり潜伏してたりしたんだろ？ 　オレは今ンとこ、知らん人とか見ず知らずのバケモノに追われるばっかで知り合いの姿を見掛けた試しがねーんだよなァ。」

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