酷い夢を見た。
気が付くと自分は牢屋の中に閉じ込められていて、そこには窓もなければ光源だってない。
鉄格子越しに差し込む光だけが唯一だった。
あたりを見回して、ようやくここは普通の場所でないことを理解した。
壁も、天井も、鉄格子も鉄格子越しの景色も。
すべてすべて、お菓子でできていたのだ。
それはまるで自分の住んでいたかつての家、魔女の住んでいるお菓子の家。
とにかくここから出ないと、そう鉄格子を掴んで声を出そうとしてようやく異変に気付いた。
ちゃんと腕がある、そういえば身体も焼け爛れていない。
…今の姿はかつての自分そのものだ、まだ人の形であったころの自分。
だが本当でないことは夢の中であろうと痛む火傷が証明する。
ここは夢の中だ、だがこう鉄格子に阻まれていてはどうすることもできない。
仕方がないのでどんどんと鉄格子を叩く。
叩く。
誰かいないかと祈りながら叩く。
…しばらくすると、誰かがやってくるような足音が聞こえてくる。
少しの安堵を覚えたが、それは間違いだったのかもしれないとすぐ思い直した。
もしも、このお菓子の家が自分の家ではなくある童話の通りならばおそらくやってくるのは魔女だ。
人食いの魔女、自分と同じ、悪い魔女だ。
しかしもう一つの可能性もある、自身が今「兄」のような状況であるならば。
「妹」である誰かがやってくる可能性だってある。
鉄格子越しに見えるのは一体何者か、息を殺して凝視をする。
…しばらくするとそれは姿を見せる。
――自分だった、そこに居たのは紛れもない、人の形であった時の自分。
鉄格子越しの自分は、自分を驚愕のまなざしで見てくる。
それは自分だって同じだ、そこまでたどり着いてようやく思い出す。
…似ている、向こうで「彼女」が見た夢とそっくりだ。
ならばこれから先の展開を自分は知っている。
夢の中なのに酷く汗をかいているような気がする。
そして自分の考えと合致するように、それは現れた。
…大きなかまど、人ひとりを放り込めそうなほどだ。
とっさに「逃げて!」と声を出したかったけど、夢の中でも喉が焼けるように痛み、声は出ない。
それから、あの時見た夢と同じように。
「自分」が「自分」に押されて、かまどの中で焼かれてしまう。
…やっぱり、「自分」を押した「自分」は酷く怯えたような顔をしていた。
しばらくして、怯えた顔のまま「自分」はこちらへと振り向いた。
「…ちがうの」
そう、小さく呟いたような気がして、そこで再び意識が浮上した。
…これは悪い夢だ。
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「おぇ…ぇ…」 |
嘔吐するように声を出す、しかし吐き出す物など赤黒い涎以外に存在しない。
先ほど見た悪い夢と、ある真実が共に頭の中を支配して嘔吐感を生み出す。
…今もなお、ナレハテを捕食したときの感触が残っている。
誰かの成れの果て、きっと自分が対峙したのは「人間」の成れの果てだったのだろう。
通りで甘美な味がしたのだ、あの時と似ているような、最悪の味。
知らないままで居たかった。
…いや、知らなくても事は既に起こった後。
なら罪を知る事の方が大事なのではないか?
結果としてまた食べてしまった自分に罪悪を覚えながらも、内容物のない嘔吐感は次第にマシになっていく。
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「ふーっ…ふーっ…」 |
息を荒くし、落ち着こうとする。
今幸いだったことは、共に行動している瑠璃子のお付き二人が決闘を避けることを提案してくれた事。
この非情な戦いに疲れが見えてきた頃合いだった。
これに関しては少しだけ気分が楽になっただろう。
…だがいずれはそれも不可能になる。
近いうちに覚悟を決めなければならない、あるいは先に帰る手段を見つけるか。
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「…」 |
ようやく呼吸が落ち着いたころ、自分で距離を取っていた同行者達をちらりと見る。
…もう少しだけ頑張ろう、迷惑はかけられない。
少しだけ皆に近づいて、道中の岩などに髪が食らいつきながらも再び合流をする。
まだ歩ける、この飢餓感はまだまだ我慢しなければ。
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「…」 |
酷い夢を見た。
それは自分自身をかまどの中へ押し込む夢だった。
勝手に身体が動いて、気が付くと押した「自分」はかまどの中へと投げ出されたのだ。
…ああ、疲れていたんだ。
死にかけていた友人が元気に生きていた。
それを知った瞬間に緊張の糸が途切れてしまったのだろう。
思えば空元気のようにくすくすと笑い、自分をごまかしていた。
きっとこれからもそうするのだろう、自分自身に元気だと言い聞かせるのだ。
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「…ふふ」 |
ちょっとだけ作り笑いがこぼれた。
…まだまだ頑張らなきゃ、自分たちの為に。
ここで疲れ果てている訳にはいかない。
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「…そろそろ馴染んできたでありますか」 |
このハザマの地へ来てから、妙に自信の自由が利くような感じだ。
証明として幾度か飴玉を介して表層へと顕現できるほどに。
いずれは助け船無しで顕現も可能になるだろう。
…そうなった時に、この戦争の黒幕を探しに行けばいい。
ああ、どうかもうちょっとだけ待ってて。
自分の大事な友達、それと大切な◆◆◆◆――
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「…ふふふ」 |

[816 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[370 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[367 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[104 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[147 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面にふたりの姿が映る。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・怖いだろうがよ。」 |
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エディアン 「・・・勘弁してくれませんか。」 |
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白南海 「ナレハテってあの!アレだろォッ!!?ドッロドロしてんじゃねーっすか!! なんすかあれキッモいのッ!!うげぇぇぇぇうげえええぇぇぇ!!!!!!」 |
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エディアン 「私だって嫌ですよあんなの・・・・・ ・・・え、案内役って影響力どういう扱いに・・・??私達は関係ないですよね・・・????」 |
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白南海 「あんたアンジニティならそーゆーの平気じゃねーんすか? 何かアンジニティってそういう、変な、キモいの多いんじゃ?」 |
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エディアン 「こんな麗しき乙女を前に、ド偏見を撒き散らさないでくれます? 貴方こそ、アレな業界の人間なら似たようなの見慣れてるでしょうに。」 |
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白南海 「あいにくウチはキレイなお仕事しかしてないもんで。えぇ、本当にキレイなもんで。」 |
ドライバーさんから伝えられた内容に動揺している様子のふたり。
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白南海 「・・・っつーか、あれ本当にドライバーのオヤジっすか?何か雰囲気違くねぇ・・・??」 |
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エディアン 「まぁ別の何か、でしょうね。 雰囲気も言ってることも別人みたいでしたし。普通に、スワップ発動者さん?・・・うーん。」 |
ザザッ――
チャットに雑音が混じる・・・
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エディアン 「・・・・・?なんでしょう、何か変な雑音が。」 |
ザザッ――
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白南海 「ただの故障じゃねーっすか。」 |
ザザッ――
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声 「――・・・レーション、ヒノデコーポレーション。 襲撃に・・・・・・・・いる・・・ 大量・・・・・こ・・・・・・死体・・・・・・ゾ・・・・・・」 |
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声 「・・・・・ゾンビだッ!!!!助け――」 |
ザザッ――
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「ホラーはぁぁ――ッ!!!!
やぁぁめろォォ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「勘弁してください勘弁してくださいマジ勘弁してください。 ホラーはプレイしないんですコメ付き実況でしか見れないんですやめてください。」 |
チャットが閉じられる――