
「へ~ぇ、アケビちゃんがねえ。
私に尋ねられた時は頑なに教えてくんなかったのに」
「当時は抗争状態だったのだろうな、仕方がない。
あの青い奴、能力は定かではないが見た目からして前衛的ではあったな」
「貴方も青いじゃないの」
「青さが違う」
イバラシティにも曰く付きのエリアがあるらしく、リュウジン区にある中華街がその一つである。
そこで久々に聞く名とそうでもない名を聞いた。
一人は常磐朱火。双子の姉妹がいるが揃って若くして探偵業を営み、その実力は確かなものであった。
異能具現体と言われる、異能により具現化された偶像が彼女の個性にて強みにて武器。ただ…
「街中で堂々と出していたなんてねえ…」
「そんなに名残惜しいか?」
「職業柄気になる」
本職は司書だが、同時に精霊使いでもあり
そういった召喚物には興味深いのだ。
「とはいっても俺が偶々見ただけだしな……」
「え~撮ったりしなかったん?」
「撮るわけないだろう、肝心な時の用心深さは確かだ。
撮る隙があるわけない。『そいつ』にカメラを殴り壊されるのがオチだろう」
「む~……」
思えば、妹イクコはフジウルが絶賛するほどの優秀な能力者であった。
その姉であるアケビが、そのイクコでさえも信頼できる姉妹のリーサルウェポンであったら?
まあ平和ボケしていても易々と情報を漏らさないだろう。
だが燐…ではなくフォスは端末を取り出し操作しだす…
そして突如みせつけたのは
「なにこれ」
「ねこだ」
「は?」
「だから、ねこだ」
「どういうことなの」
それは、みかんを乗せた猫っぽい頭部と鏡餅のようなフォルムで
淡い体色の摩訶不思議な生物の後ろ姿であった。
「アケビちゃんのとなんの関係があるのよ」
「強いて言えば、中華街にいた」
「そ、そう……それで、これはこれで不思議ね。
しかも後ろ姿でこれは相当かわいい感じだわ。
何者かしら? 猫っぽいけど」
「だから、ねこだろ」
「なんなのよその押しの強さ。
それで、このかわいこちゃんはなんかしなかった?」
「『ねこ』と言いながら弾むように逃げた」
「そ、そう…………」
ねこの話は此処までにしておこう。
だがイバラシティの中華街の話題は続く…
そんな妖しい不思議なエリアに『彼』は留まり、そこから迎え入れられた。
淡々と端末を叩き、或いは本を捲り、燐に代わって図書館の手助けをしていた男…
名はトリフェーンという。
「ここ、置いとくよ?」
大量の本を傍に積まれると、視線だけ合わせて頷く。
トリフェーンは喋らないのではない。喋れないのだ。
首元を長く巻いたマフラー、その下には異形の口があり
あらゆるモノを消化できるが、声帯その物が欠けていてまともに発声できないとか。
どう考えても異形であるが、虎魄館分館では何故か堂々と手伝いをさせていたのだ。
「何か対策あっての雇用だよね?」
当然の疑問を投げ掛けるフジウル。
「もちろん」
「えっ、君の提案なの……」
「なんで不安そうな顔すんのよ」
「元からこういう顔だよ」
「地顔と違いを私が判らんと思ったの?」
それはさておき、純粋に気になったのだ。
「お客様にトリフェーンのことを聞かれたらこういうのよ。
『この人、病気がちで顔色悪いんです』」
「いくら顔面積が少なくても無理があるだろう……」
「まあ待ちなさい。他にもあるわよ。
私の異能具現体です」
「どういうことなの」
喋れないトリフェーンも同様の発言をしたそうな表情だ。
「いくらなんでも無理があるだろう…
その手のヒトに見破られるのがオチだよ…」
「その手のヒトなんて来ないって」
[イクコっていう子がその手のヒトなんじゃないのかい?]
「端末越しに真っ当な突っ込みすんじゃないわよトリフェーン!!
ええいどうせ短期間よ大丈夫大丈夫!!!!」