
1月26日。その日、同じお店で談笑した友人と別れ、街の最南端にある岬に足を運んだ。
『……少なくとも、あたしには聞こえない。星も、風も雨も喋らないよ。』
別れる前、友人の口から聞こえて来た言葉を反芻する。
風も雨も『喋らないよ』
しかし、此処では、いろんな『声』が聞こえてくる。風の『声』。波の『声』。今でも、当たり前のように。
人の言葉に置き換えるのは難しい。人とは、違う『感性』で声を発するモノ達の『声』は、せいぜい、そのニュアンスを察するのが精一杯。
『声』は、今でも、確かに聞こえてくる。私にとっては当たり前のように、聞こえてくる。
けれど、風や波、石、雨…そういったものの『声』を聞ける人間は、居ないらしい。当たり前だと思っていたものは、当たり前ではなかった。
……なら。
今、自分が見て、聞いて、感じているこの『世界』。その確かさは、誰が証明してくれる?
ひょっとして、私一人、他の人とは『違う世界』を見ているのではないか?
「……ッ。」
やっと、友達が出来たと思ったのに……漸く、一人じゃなくなったと、そう思っていたのに……。でもその友達は実在するのだろうか?友達と呼んでくれた人達も、私が都合よく、そういう幻覚をみているだけなのではないか?
『私は貴女を一人にはさせない。』
そう言って、私の手に、手を重ねてくれた彼女。今でも、その感触はしっかりと残っている。
でも……それすらも、本当だったのか?
……あの瞬間は、現実だったのか?それとも、私が都合よく見ている錯覚なのか?
「A...Ah...」
いやだ……もう、一人は嫌だ……!
『よく見知った』白い部屋が、脳裏に浮かぶ。何もない、誰もいない。ただ白いだけの部屋。自分ひとりだけの、白い部屋。
やだ……もう戻りたくない…!!
出して……!!この世界から出して!!!
ひとしきり、声無く叫び、嗚咽を必死にかみ殺し……。
やがて……力尽き、フラフラとしながら、岬を後にする。
きっと、ひどい顔をしている。このままじゃ、帰れない…。
■■■■年01月25日 職員■■■による記述
XXX-XXXXの周辺にミーム汚染の原因となり得る要因が数件認められる。
XXX-XXXXへの汚染の有無は不明。XXX-XXXX周辺への干渉を極力避けるべく、XXX-XXXX本人へのミーム除染処置と現状の対ミーム汚染処置強化の必要性を認む。対ミーム汚染処置の是非に関する判断を求む。
■■■■年01月25日 ■■■博士による記述
ミーム除染処置の必要性を此方でも認む。対ミーム汚染処置強化については、本格的な処置については現状保留。此方にて簡易的な処置手順甲案を別途記す。
XXX-XXXXに対しシナリオ『妹の送迎』の処置を許可。甲案を元に対ミーム汚染処置を施されたし。
※以降、対ミーム汚染処置に関するデータへのアクセスが可能となります。
■■■■年01月26日 ■■■博士による記述
XXX-XXXX周囲の人間関係深化に伴い、XXX-XXXXへ施されているカバーシナリオ「チャールトン家令嬢」の詳細部分の構築を求む。
また、XXX-XXXの情緒に著しい不安定化傾向を検知。沈静化処置の必要性を認め、処置を実行済。