
目覚めると、いつも映るは空。
赤、朱、真紅、緋色、臙脂、唐紅、柘榴……無限に広がる血色の天壌の下、私は立つ。
嗚呼……なんて綺麗なのかしら。
思えば、あの人と出会った日の夕暮れもこんな美しさだった。
あの人に救われた日、運命に出会った日、恋に目覚め愛を知ったあの日。
自然と頬が緩む。
四肢に力が漲り、心が昂ぶり、血肉が歓喜の叫びを上げる。
「さぁ、始めましょう」
あの日、全てを失った。
憤怒に身を任せて、私の五体は、魂は打ち砕かれた。
愛するあの人は何処かへ消え、馬鹿と間抜けは死に絶え、どうでも良い者たちが私を粉々に滅ぼした。
忌まわしき記憶を辿れば、今でも白銀の太刀筋が私をなぞる。
だから、私は忘れない。
だから、私はここにいる。
だから、私は踏み出した。
それでも諦める事なんて、出来はしないから。
「さぁ、始めましょう」
あの日、絶望に沈んだ。
あの人は、あの世界の何処にも居なかった。
日の本を探した。大陸を見渡した。欧州を駆け抜けた。海の向こうを越え……この星の下にあの人が居ないと知った時、私の生きる意味は失われた。
だから、私は怒りに身を任せた。
だから、私は負けたのだ。
だから、私は世界に見切りをつけた。
そこにはもはや意味もなく、そこには私の居場所など無いから。
「さぁ、始めましょう」
あの日、私は見つけた。
無限に連なる世界。
無限の空の星々に、広大な砂漠の砂粒に等しい数多の可能性の中から、確かに手繰り寄せた逆転の手札。
絹糸よりも細く、蜉蝣の羽より薄い、儚く、弱く、しかして確かなあの人の痕跡を、私は見つけた。
それを奇跡と、人は呼ぶのだろう。
神の御業と、人は願うのだろう。
悪魔の悪戯と、人は恐れるのだろう。
だけど、私には関係ない。
だって、私は手に入れた。
だから、私にはソレで十分だ。
それが私の生きる意味……私の願い、私の愛、私の狂気、私の夢、私の意志、私の、私の、私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の私の………私の全てッ!!!
嗚呼、漸くこの時だ。
さぁ……始めましょう。
これが、私の侵略だ――――!!