
――そう、そうだ。そうだった。
荒廃した街並みを見回し、その地を、土を、砂利を、瓦礫を踏んで、
嗚呼、と溜息にも似た声を漏らした。
”私は 一華ヒナ などという小娘ではない。”
あんな記憶は、何もかも全て偽りだ――
《屍の魔女》Picon
《屍の魔女》と呼ばれた吸血鬼
――全てはELと共に。
自分が置かれている境遇を、状況を思い出す。
何故此処にいるのか。何故人間に紛れていたのか。
そうしてひとつひとつゆっくり記憶を手繰ると、どうしたって歯痒い思いは止められなかった。
――どうして忘れていたのか。彼のことを。
《仮面の男》EL
傍らに立つ、仮面を着けた長身の男の腕を取り、絡め、愛していると小さく呟いた。
彼と共に居られる場所を求めていた筈が、どうして自分だけ人間としての生活を――
――
楽しんでいたのか。
楽しんでいたというのか。あの生活を。
人間に紛れて、人間と共に過ごしたあの日々を。
彼とふたり、幸せに暮らす為の場所だけを求めていた筈なのに、私だけ。
がり、と爪先を噛む。
あの日々を、”悪くなかった”と思えてしまう自分が厭になる。
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Picon 「エル、エル……私、私はいけない子だったのだわ……」 |
彼の事だけを考えていれば良かっただけなのに。
その為にあの街を乗っ取ってやりたかっただけなのに。
――自分一人だけが人間としてあの街に降り立ったのは何故だったのだろう。
この侵略が成功したとして、きちんと”彼”も共に行けるのだろうか。
……いや、今それを考えても仕方のないことだろう。
全てが終わってから考えればいいことだ。
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Picon 「エル、行こう。私、貴方と一緒なら何にも怖くないのよ。」 |
彼の手が背に触れる。そして私は安堵したように笑って、一歩を踏み出す。
記憶の中にある誰に会ったって、躊躇わず全て殺して、
侵略なんてあっという間に終わらせてしまえばいい。
そうして私はずっとずうっと、彼と共に幸せに暮らすのだ。
――” それで 本当に いいんだろうか”
そんな風に脳裏に過ぎることに、気付かない振りをした。
私に、友人たちなんていない。