『1.全ての贈答品を返却する』
二人ぼっちの屋敷に人が増えたのは、それから暫くしてからのことだった。
それまではのらりくらりと屋敷に訪れていたスカリムさんが
突然、僕にお願いと称して空き部屋を貸して欲しいと言ってきたのは。
僕のことを知らないから、スカリムさんの為に僕を知りたいのだと。
嬉しくなって、僕は従者――タユタにすぐに聞きに行った。
本来なら主人である僕が決めてよかったのかもしれないけれど、
そんな判断力を持ち合わせていなかった。
ただ、僕は用意されたレールに従うだけ、
二人ぼっちの屋敷なのに、僕の中でそうなってしまったのは
多分、あの従者が有能すぎて、全てに答えをくれたから。
今回もそう、タユタは契約書と称した書類を僕とスカリムさんに渡した。
簡単な約束事をいくつかと守らなければこのような罰がありますよというような書類。
普通に考えればこんなものにサインなどしなくてよかったかもしれない
でも、僕は簡単にサインをしたし、スカリムさんもしてくれた。
それからの日々はきっと楽しい日々が増えると思っていた。
けれど、彼はいつも屋敷にいるわけではなく、時には仕事で何日も部屋を空けて
こんな寂しい思いをしなくていいと考えていたのに
スカリムさんが居てくれる日は楽しいと思う反面
今までの倍、寂しいを感じる日々が増えて、就寝時間のギリギリまで待っていた。
ずっとそう、僕の愛は一方的で、盲目的で、相手に届かない。
だから僕は、気付かなかった。
スカリムさんがどれだけ僕のことを大切にしてくれているか
休みの日は知らないことを教えて外に連れ出してくれたり、知らないものを買ってくれたり
何もなかった僕の部屋が、少しずつ色が増えていったのに
ある日、休みだから遊べると約束していたのに、仕事が入ったからと
スカリムさんに反論をしたけれど、今後の信用に係わるからと彼は行ってしまった。
大人と子供の信用の世界、この世界は相容れないもので
僕はぷつんと糸が切れて、従者の罰だからと称して、全て彼に返した。
色が増えた部屋が、元の素っ気ない部屋に
それは、彼の心を踏みにじるには十分すぎて、どれだけ重いことをしたか分かっていなかった――
クラクラする、戦ってそうなったとか、記憶に酔ってるとかではなく
多分これは、隣にいる主の異能の影響だと分かっているけれど離れるわけにもいかない。
「だから、仕方がない――」
また傷が一つ、こういうとき肌を隠している服を選んでいて良かったと思う。
明らかに戦闘でついた以外の箇所の怪我は、きっとスカリムさんが心配してしまう。
主に心配させていてはいけない、いつものように笑って過ごそう。
ところで、決闘で見た不名誉な記憶が何故あのハヤミという人物が知っているんでしょうか。
やはり一人だからと遠慮しないで息の根を止めてしまえば良かったのでは?
いくらイバラの世界の僕が嫌だと思っていても
スカリムさんにまであのど下手くそな絵を描いているのを知られるのは……
うん、次回会ったときは容赦なく潰しましょう。
でも、もう一つ気になる光景が見えたんですが、
あの人ハザマの世界のスカリムさんにキスしたんですか?
嫉妬するべきなんでしょうけれど、如何せん今回の記憶に僕にまでキスしてくる記憶が入ってきて
アガタさんという方はキス魔何でしょうか、という思いしか浮かびません。
それよりも、ハザマの敵からスカリムさんを守るつもりでいたのに守れなくて
その方が辛くて、痛くて、勝てたけれど嫌でした。
だから、次は守れるように頑張らないと――