スカリムさんの第一印象を言うならば『邪魔』だった。
今のような感情は全くなくて、僕はそのとき別の人にしか眼中になくて
邪魔だった人がいなくなったときにようやく会えると思ったそのとき
スカリムさんはその人を守る用心棒みたいな立場で居た。
それが、出会い――
じゃあ、何故今のような状況になっているのか。
あの人は事が済むと二人ぼっちの屋敷に突然ふらりと、何事もなかったかのように
ただ買い物の約束をしたから、友人だからと告げ本当に会いに来てくれた。
口約束だけで破る人なんて沢山いるだろうに。
二人ぼっちになってから初めて誰かとの約束をして、買い物をした。
だからその為ならその日の課題の山も頑張って終わらせた。
そしてきらきらの宝物のような、傍から見たら大したことのないものかもしれない
けれど、質素な僕の部屋に増えたその日の物は、とても輝いて見えた。
その日の最後にスカリムさんはこう言ってくれた。
「またね」
言われたことがなかった、皆僕を怖がるのに、頭を撫でて、また会う言葉を。
ヒーローでも救世主でもないけれど、僕の敵じゃない、僕を傷つけないと。
「スカリムさんは、まだいらっしゃらないんでしょうか……」
勉強の手を止めては、譫言のようにそんなことを言う日々が多くなった。
気紛れな風のような彼が会いに来るのを、僕はいつの間にか楽しみにしていて
何日も、何週間も彼が来なくなると、寂しくてとても不安になって
この感情に対する言葉を、そのときの僕はまだ知らなかった。
そのモヤモヤした気持ちの問いを、スカリムさんは答えてくれた。
「おめでとう伊舎那坊ちゃん、それは恋だね」
「……こ、い?」
「そして僕に恋してくれて、ありがとう」
これは、僕とスカリムさんが現状のようになるまでの、ほんの一部――
頭が痛い。どれに対しての頭痛なのかわからないくらい記憶が流れ込んでくる。
僕は向こうのスカリムさんのことはそこまでどうこう思わないけれど
だからといって姿が違っても仲違いをしないといけないのか。
あんなに僕と違って色んな人と話せるくせに、向こうのスカリムさんを好きでもないのに
怖いというくらいなら謝って、そこから姿を消せばいいじゃないですか。
何でわざわざ壊れ物を扱うように扱おうとするんですか。
「これじゃあまるで……」
ずきずきと響く原因はそれだけじゃない。
スカリムさんの異能をあれ越しに理解すると思っていなかった。
ああ、時折意識を持って行かれそうになる――
悟られるな、異能がこちらで効いていると分かったらきっとスカリムさんの足は止まる。
休もうと、探すのを中断しようと。
でも、早く見つけないと、だからこの足を止めてはいけない。
このことも伝えてはならない。
きっと、向こうの僕が一時的に効かなかったのにはタユタが何かしてるんでしょう。
だから向こうはまだ歯止めが利く、僕にその術はないけれど。
「……いきなり足止めなんて困ります」
己の身に傷をつけるのは、痛いけれど、意思を持っていかれないようにするなら仕方ない。
スカリムさんが料理を躊躇している内に、傷が、一つ。
これでまだ大丈夫だろう――
ところで、折角画家という知り合いができたというのに
あれは絵画にまるで興味がなく、いや、絵を見ること自体には興味があるのでしょう。
それよりも、何故、何故、僕が
あんな酷い絵を描いて満足気にしなくてはならないのですか。
正直、あの記憶が入ってきたとき、大分あれに殺意が増したんですけど手を出せない。
弁解しようにもCross+Roseを使ってもあの画家、アガタのデータはなかなか出てこない。
もう一度チャットを送ってみようか、しかしそろそろ戦う時間だ。
前回は前回で、Cross+Roseで相手の名前を確認したところ知り合いだった。
姿が違ったから、僕らのようにアンジニティ側の人だったのかもしれないけれど
それでも名前は、あれが大学で世話になった先輩の名前だった。
そして、今回の相手の名前をCross+Roseで確認すれば、ああ、と呟く。
「あなたはここにいらっしゃらないんですね」