例えば、何かを教えてもらったり、意見を交換していく場合
一人がAと言い、一人がBと言い、一人がCと言って意見が割れていったり
そこからの意見交換があったり、
その中で自分はこれだという答えや新たにDという選択肢を新たに選択する。
僕にはこれがなかった。
正しくは幼少の時まではそれがあった、確かお母様が亡くなるまで。
そして僕の従者に彼女がやってくるまではもう少し僕は何かを言えたと思う。
彼女が従者になってから、僕の質問を返すのは彼女だけになり、
僕がAと言ったとして、例えそれが合っていても間違っていたとしても
彼女がそれをBと言えばBなのだ、それしか確認方法がなかったし、信じるしかなかった。
だって僕にはそれしかできなかった。周りに、彼女しか居なかったんだから。
屋敷に二人ぼっち、それで正しく成長できた方が凄いのではないだろうか。
『あの従者が歪んでなければ』
僕と深く関わった大人達は口を揃えて言った。
それだけ、傍から見たら僕は歪んでいたらしく、
最初はわからなかったけれど、今はあの人が狂ってる、おかしいくらいの判断は分かる。
それでも分からないのは、時々彼女は従者をやめても力になってくれる。
ここへ送ってくれたのも彼女だった。
まあ、飛ばされたのはイバラシティではなくアンジニティで、あんな姿なわけだが。
「……どうしてまだ近くにいるんですか、タユタ?」
イバラの記憶を思い出しながら、伊舎那は呟いた。
彼女、タユタはイバラシティの僕が働くホストクラブのオーナーとしていた。
本来の姿で適当にイバラシティに合わせた衣装を見繕って、能力も異能と称してそのまま使って
僕がどこにいるか分かるようにあれをホストとして勧誘したとすら思える。
まだ、僕は彼女の檻の中で飼われているんだろうか――
きっとまたスカリムさんが苛々しているんだろうな、
スカリムさんはタユタが何かをするととても腹を立てる、
……やっていることがことなので仕方がないとは思うけれど。
また、イバラシティの記憶が入ってくる、ぐるぐると様々な記憶。
羨ましい、疎ましい記憶、僕が持ってないものをあれは平然とやってのける。
簡単に人を信じる、いや、信じてはいるか怪しい感じだけれど。
少なくとも、僕より何倍も何十倍も人と触れ合うことに慣れている。
けれど、あなたは僕みたいなミスを、よりによって彼女の前でした。
くらくらと色々な香りが混ざった中で、きっと拒まれないと思っていた自信。
だが彼女の反応は拒絶、蒼白の顔、それが、自分を認められなかったことが嫌だったんだろう。
他の人なら兎も角、それが、彼女だったから。
結局、成長しても、明るく振る舞っても、僕は僕でしかないのだな、と
つまりは、僕がいくらあんな風に変わろうとしても、根本は変わらないのだろうか。
「……嫌だな」
スカリムさんは、僕に違う未来を見つけて欲しいとも言う。
もし、これが一つの未来だとして、僕がどんな色の花を咲かせたとしても
根元が変わらない限り、きっと僕は憎悪して、嫉妬する。
スカリムさんのことを考えたいのに、駄目な自分のことばかり考えてしまう。
深い、不快、溜息をついた。