『侵略』。
そんな言葉を聞いたのはいつだったか。
そんな言葉を言い始めたのは誰だったか。
私には『侵略』なんてどうでも良くて、
ただこの狂った世界から逃げ出せる可能性があるなら
それに縋りたいと考えていただけだ。
ただ、幸いと言うべきなのか。
『侵略』というひとつの到達点を与えられた
この世界の住民たちは、目的こそバラバラでも
なんとなく方向性を持ってまとまり始めた。
そこで、私はようやく考える余裕を得ることができた。
私は何がしたかったのだろう。
私は何を求めていたのだろう。
覚えているのは、ひとつだけ。
あの日の願いを。あの日の誓いを。
もう一度彼らの隣に寄り添うために。
私は、文明の灯を消そう。
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少なくとも、僕は『才能』に恵まれていたわけではない。
だからこそ、それを埋めるための『努力』が必要で。
『努力』の過程で躓くのは当たり前のことだった。
ただ、その『当たり前』がどうも『先生』には
我慢ならないことだったらしい。
腹を殴られ、背中を焼かれる日々は苦しかったけれど、
『先生』はきっと僕よりも苦しんでいたのだと思う。
夜中、トイレで泣きながら吐いている『先生』を見て、
僕に何かできることはないか、と何度も考えた。
もちろん、出来ることなんてひとつしかない。
『先生』の理想の音を奏でさえすれば良いんだ。
たったそれだけのことなのに。
それがこんなにも難しいなんて。
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文明の灯に照らされて、星はその光を掻き消され、
その名前を忘れられて消えていった。
ひとつ、またひとつと同胞が消える度、
私は『忘れないで』と叫んでは泣いた。
でも、もう私の声は届かない。
「どうしてこんなひどいことをするの?」
耐えきれなくなって私は▇▇に詰め寄った。
▇▇は、ただ悲しそうに笑うだけだった。
「『神秘』の終わりは得てしてそういうものだ。
▇▇たちが辿るのは大いなる道のひとつに過ぎないんだ」
私には理解出来なかった。
どうすれば私たちは消えずに済む?
どうすればまた彼らに寄り添える?
ああ、簡単なことじゃないか。
それが私たちを否定するのなら。
私は、文明の灯を消そう。
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別に、辛いことばかりして生きてきたわけじゃない。
僕にだって楽しみな時間はあった。
星空の下で待ち合わせるその時間。
僕はそれが楽しみで1日を頑張れる。
目を閉じて、耳を澄ませる。
舗装された道路を駆ける音、弾んだ息遣い。
ほら、彼女の足音が聞こえてきた。
「──ごめん、遅くなった!結構待った?」
「うん、ちょっとだけね?」
帽子の下から溢れる長い髪。
きらきらと輝く瞳は宝石のようだ。
『先生』が寝静まった真夜中の自由時間。
僕たちはこうしてこっそり集まっていた。
「今日はね、お菓子を持ってきたんだ」
弾けるような笑顔を見せる彼女の名前は▇▇▇。
僕の、たったひとりの友人だ。