黒い森、麓の村。
恐ろしいのは常に集団の悪意だった。
――――あれこそが、ヒトの成す極大の悪、いずれ至る罪。
ある年、村に飢饉が訪れた。
いくら手を尽くそうと作物は育たず、とうに村人たちの精神は限界を迎えていた。
―――そんな時だ、一人の女が人柱として捧げられたのは。
足に着けられた錘に連れられ鈍い音をたてながら湖底に沈んでいく女。その手は、最後まで水面に伸ばされていた。
私は何もしなかった。
ただ妹たちと日々を過ごせるならそれでいい。
―――不思議なことに、その後村から飢饉は去った。
・・・それからだ、あいつらがただ一人の人間に全てを押し付けて心の平穏を得ることに、味を占めたのは。
またある年、今度は度重なる災害に襲われた。
・・・また一人、人柱が選ばれた。
空を火の粉が舞う中で、その女は三日三晩よく燃えた。
私は何もしなかった。
普段は神も信じないくせに、こういう時だけ都合のいい連中だこと。
その年に、今度は謎の病が蔓延した。
あらゆる治療法を試したが、病を治す方法は見つからなかった。
――――1人の村人が言い出した。
「魔女の仕業に違いない」と―――。
そうして村人たちの魔女探しは始まり、やがて半月前に移住してきたという一人の女が捕らえられた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
私は何もしなかった。
妹たちが無事ならそれでよかったから。
そしてまたある日、村で騒ぎが起きた。・・・毒婦として、また女が捕らえられた。
数多の男を惑わせた悪い女だと、村の何人かの男たちが供述した。けれど、女だけが悪いわけでは無いと、本当は村人たちは分かっていたはず、・・・だった。
その日のうちに、女は吊るされた。小さな風に煽られて、桃色の靴がふらふらと踊っていた。
私は何もしなかった。
・・・けれど、怖くなった。
それから、私と妹たちは目立たぬように、村の端で暮らすようになった。
今日も村では誰かが犠牲になったけれど、それでも妹たちと暮らす日々は何よりも幸せなものだった。
―――――そんな日々も、長くは続かなかったけれど。
見られていたのだ、私の『力』を使うところを。
私は村人たちに捕らえられた。
悪魔の子供だと罵られ、妹たちも捕らえられた。
・・・私が、・・・私たちが、いったい何をしたというのだろう。
―――――それから私は処刑され、気が付けば此処<否定の世界>へと流された。
今、この身に残るのは、妹たちへの後悔。
・・・・贖罪としてあの世界<響奏の世界>を手に入れる、・・・それだけが、今の私の望み。
『あの女』が拒絶したせいで異能が使えなくなったのは・・・想定外だったけれど。
でも、これで心置きなくあの世界の住民を手に掛けられるのだから・・・その点では、感謝しても良いくらいだ。
とはいえ、私は元はただの村娘で・・・戦いには詳しくない。一人で戦うのはとても現実的とは言えなかった。
――――だから、手を組むことにした。同じ、<侵略する側>のやつらと。
全員、あの世界で出会った記録のある顔ぶれ。
けれど、私にとっては初対面も同然だ。
仲間、などというほど親密な関係でもない。だから、『同盟者』と呼ぶことにして。
私は、あの世界を、勝ち取りに行くのだ。