―――始まりは突然だった。
数か月前、突然頭の中に響いてきた声は異世界から私たちの世界への侵略を示唆した。
“侵略”。そう、侵略だと。負けてしまえばアンジニティという荒廃した世界と入れ替わってしまう、と。
そして・・・それは既に始まっているのだ、と。
今、私の眼前には見憶えがあって、だけど見覚えのない世界が広がっている。
チナミ区・・・イバラシティの北西にある地区。日々のランニングで何度も通過したから見覚えがある。けれど―――こんなチナミ区は“知らない”。
電気の途絶えて久しい看板。風雨に晒され砂塵に汚れて今にも朽ちそうな建物。
地形も少し変わっているあるところは隆起して低い山を形作っている。
またあるところは広く陥没して澱んだ水が溜まり沼地と化している。
これは―――この風景は―――私が“知ってる”チナミ区の筈がないのだから。
――――“ハザマ”の世界。あの時、私たちにアンジニティの侵略を示唆したという男。
榊と名乗る人物はそう呼称した。
つまりこれは・・・私達が負けた場合はこの風景が現実となってしまうのだろう。
いや、もしかしたらそれすらも“ハザマ”、つまり中間なのかもしれない。
もっともっと、ずっと酷い世界に私達は放り込まれてしまうのかもしれない。
―――顔も知らないアンジニティの住人達のせいで。
そんな理不尽極まりない事、到底看過出来る筈もない。
私達は現実の見えてない聖人ではない。右の頬を殴られたらこれ以上殴られないように殴り返す。
抗うしかないのだ。
それでも、中には満足に戦うことも出来ない人間も多いと思う。
私達は異能を持っている。それでも全ての人間じゃない。
持っていても戦闘向きでないことも多いだろう。
幼子、老人。それだけじゃない。心の弱い者だっているだろう。
つまりは、守らなければならない。それは私にしか出来ないコト。
私は幼い頃から武道を継ぐ者として修練に明け暮れてきた。
実戦経験は殆ど無きに等しいが、それでも身に納めた術理はその辺のスポーツ選手なんかは簡単に凌駕するだろう。
そして、武器。この刀―――“大神成”。
これを手にした時は4年も前のことだった。
手にして何か目の前が白くなって・・・何か声が聞こえた気がした。
どうしても思い出せないが・・・それからこの刀は私専用のものとなって、そして私はこの刀から離れられなくなった。
手放せないノロイ。その代わりに私は“チカラ”も得た。
獣の力。私にはその日から耳と尻尾が生えた。
身体能力が大幅に向上したし、五感も大概に強化された。
視力や味覚、触覚はそこまででもないが夜目は効くし、聴覚と嗅覚に至っては人間の身体には強すぎる。
この特製の首輪で能力を抑えていないと強すぎる感覚に頭が痛くなってしまうのだ。
武器とそれを扱う技術、異能、それに獣の力。
これらが揃っている私は戦わなければならないのだろう。
そう――――
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鈴 「……みんなを守るために。」 |