ハム先生の一週間

「ああ、その履物も素肌が見えぬ分邪魔ではないかと思うたが、それはそれでなかなか悪くない。
（こちらから見ると脚のラインは丸わかりの上、タイツがある事で更に強調されているようなもの、良い眺めだ、と満足げに頷きつつ）」

「ふむ、これは医者が着るものか……そうか、保健医とやらは学び舎の医師を呼ぶのだったな。
…我の世界には無い、……代わりに此方は在るが。」

「（これの事だろう、と眼鏡を外してグラハムの方へ向け、かけさせ）」

「視力を矯正するものだ。
これがあれば近視の者にもよう見える……とは云え、我の視力はそう悪くない。
よってこれはその形を真似たものに過ぎぬ故、かけてもよう見えるようにはならぬが。」

「（もしかしたら薄い硝子の分、涙でも浮かべた時のように少し視界がぼやけるかもしれない）」

「我も、学び舎に通うた事はない……いつも我の所へ教授が脚を運ぶのが決まりであったからな。
このように集い、共に学ぶ日々とはどのようなものなのだろうな。」

「（此方の正体に気付かない学院の生徒達は、襲撃者──英雄達との交戦に神経をとがらせている分をさっぴいても、やはり生き生きとして楽しげに見える。
目を細めて若者達の姿を眺めながらグラハムの言葉に小さく笑みを吐き）」

「……皆、そうだ。
己を完璧に把握し、律しているなどと思っている者も居るだろうが、
それは気付いておらぬだけよ。」

「（学生達眺めたまま、ライズの頭を掴んでがしがしと撫で）
ああそうだな、酒池肉林だ（否定しない）
仕方があるまい、汝らの世界ではどのような仕組みかは知らぬが──（グラハムの言葉を挟んで苦笑いし）子が皆成人するとは限らぬ」

「我の国は砂の海、……生まれた子が皆健やかに成長するとは限らぬし、また、王の子であれば命を狙われる可能性も高い。
生き残った一握りの中に王の器を持つ者が現れる可能性は、また更に少ないのだ。」

「……（胡散臭げな師戦を受けて何だ、と笑い返し）
まあ、美姫に囲まれる事も子作りも我にとってもやぶさかではない事は確かだ。」

「（闇を抑える、と此方も声をひそめて反芻する。
複雑げなその事情にグラハムを一瞥してから「そうか」と相槌を打ち）

……己を知る者は居らぬ、己自身ですらわからぬものが如何して他人を全て理解できようか。
我は汝らの世界の者とは違う、かけはなれた身故に無責任な事を云うが、汝に出来る事があの者を気遣う事のみであるなら、ただ愚直にそれだけをしていれば良いではないか。」

「グラハムが己が傷付く事を憂う事も出来ぬのであれば、汝に出来る事はそれを悲しんでやる事、残念に思う気持ちを伝えてやる事、グラハムの心が『彼』とやらの意思に染まらぬように、」

「それを望まぬ者が此処にいて案じている事を教えてやる事、だ。」