たんぽぽ荘・万已楽の自室（万已楽攻城なう）
　　　　

　万已楽の自室にはエヴリーヌが一人で、万已楽の置いた黒い通信装置とやらを弄って話し込んでいる。いつもの定期的な連絡だろうと万已楽の自室に居るエンブリオ達は気にしている様子は無いようだ。

なにやらピリピリした雰囲気に気づいたオコジョがエヴリーヌに擦り寄って和ませようとしているが、それを無視してエヴリーヌはどこかに出かけてしまった。




　　　　　　　　　
　　　　　　　
たんぽぽ荘・万已楽の自室（万已楽帰宅なう）
　　　　

　万已楽は外を眺めながらほけーっと考え事をしているようだ。尻尾をゆらりゆらりと揺らし、いまいち煮え切らない様子だ。

　万已楽に接近を悟られないように、音を立てないように静かに近寄るエヴリーヌの腰には、万已楽が出かける前には無かった巨大な手、爪のような武装が装着されていた。
時には巨大な手として敵を粉砕し、時には剣として敵を切り裂き、時には盾として攻撃を防ぎ、時には銃としてメリア鉱石の力を放出する。通常時は腰に装着しておくことで作業の邪魔にならない便利な武装らしい。

　そのままじわじわと接近を続け、万已楽にもう少しで触れるような距離まで接近することに成功した。この距離ならメリア鉱石を奪い……万已楽を機能停止にする程度はエヴリーヌなら可能だろう。ただし、このまま気付かれなければの話だが。

　動きがピタリと止まる。

　反応に疑問を感じた万已楽が振り向く前に平時の様相に戻る。まだ気づかれるわけにはいかないが、腰の武装は隠しきれない……仕方がないのでこの状況を受け入れることにする。

網がぺにゃんと柔らかくなりますが、相変わらず輪の部分は垂直のままです。

説明のためにぐるぐる、と指を回してみせる。

　普段から戦闘に刃を用いているからだろうか、尻尾の背ビレが鋭く、鈍い光を放っていることに気付く。
　マイラから話を聞けば聞くほどに、彼女の体が水中戦用に特化されているのだと頷くと、興味は次第に水中で人魚のように泳ぐのであろう彼女の姿に向き始めているらしい。
　…見てみたいなぁ、お前が水中で泳ぐ姿を。そうぽつり、と言葉を漏らしてしまうほどに。

　『あら、これは貴方がやったことでしょう？可愛い可愛い、私の梓ちゃん』
　そのフレーズが姉の口癖となり始めて、俺の前だけで狂ったように笑う姉の姿はそりゃー、怖かったもんだぜ。と話す梓の口元には苦笑いが浮かぶ。