【ミスったのでちょっと改変して再掲！】

るみゃから聞いた、言霊術の概念は、フィーグルにとって強烈なカルチャーショックをもたらした。

彼女にとって詠唱の言葉とは自己暗示であると同時に、世界に対して己の思考・思念・意思を顕現させる、いわば橋のようなもの。
言葉そのものが力を持つ等、考えた事もない。
それ故に、フィーグルは強い興味を持った。

魔法に利用するにあたって、考えたのはそれだ。
言霊術は確かに非常に便利だし、魔法でできない事も成し得るだろうが、己の本分は魔法にある事までは忘れない。
今、必要なのは即戦力だ。
言霊術はあくまで補助として使用するのが良いと、フィーグルは考えた。

だが、安定はしない。
実戦で使った時も調整が思った以上に難しく、危うく失敗しかけて肝を冷やしたのを覚えている。
一番使い慣れていて、調整も楽な"鬼火"であの様だ。他の言霊術が上手くいくとは思えなかった。
試しに、もう一度詠唱をしてみる。

そこまで詠唱をして、中断した。
既に安定していないのだ。根本的にやり方を変える必要があるだろうと考えた。
顎に手を遣り、考え込む。

現在しているのは、単なる詠唱ではできない事。
己の世界の、それも地獄に繋げて、そこから召喚をする術だ。
二つの世界を跨ぐ事になるとは思わなかったから、今までの召喚術では対応できない位置だ。
しかし、言霊術を使うことで此の世と彼の世の境目を薄くする事ができ、安定はしないものの召喚する事はできた。

…という事は、考え自体は間違っていないのだろう。
ただ、安定しない原因はどう見積もっても言霊術にあるのが明白なので「修練を積み、より深く理解する」以外の道が思いつかないのは問題だった。
くどいようだが、今使えなければ意味はないのだ。
この調子では、少なく見積もっても安定までには数年かかるだろう。
とはいえ、召喚の方をより精通させる…というわけにもいかない。そちらは未知の分野を開く事になるのだ。研究と実験、そして実践で軽く10年は潰れると見て良い。

お互いに出来る事が限られている。その枠を越える事ができないとなると、お手上げ……

今の思考に、違和感があった。
もう一度、考えてみる。
…出来る事はどちらも限られているのだろうか？
自分の魔法は、現世と冥府の境目を揺らがせる事はできない。
だが、言霊術の方はどうだろう？　"召喚"もできるのではないだろうか？

ただやるとなると難しいだろう。
だが…

いわば、逆の発想だ。
なまじ魔法、それも召喚術を得意としていた為に、そんな簡単な事も思いつかなかった。

杖を振り上げ、構える。
杖の先にある空間に意識を集中させ、言葉を紡ぐ。

距離は十分に離れている。
杖を通して視線の先へ力を送り込む。

黒い渦が広がる。
その奥から重厚な気配を感じる。
術は……安定している。問題ない。
いきなりうまく行ったことに気分の高揚を覚えつつも、詠唱を中断した。
渦は弾けたように消え去る。

こっちもできるだろうか？
そう思い、先程のものよりも難易度の高い術を紡ぎ上げる。

黒い渦が空間に形成される。
術はあまり安定しているとは言い難い。だが――

二つの眼光が、確かにフィーグルを見ていた。
懐かしげに、目を細めている。

にやりと笑みを返し、最後の一節を呟いた。

※日誌より前の時間になります。

　フィーグルが観察しているメリアレビン石は、見ていると吸い込まれそうな危なげな雰囲気や
周囲の魔素を少しずつ吸っている魔力の流れや
他の世界の住民にとっては完全に異物である危なげな気配を感じれる　かもしれない
万已楽の言っているように確かに危険な存在なのだろう

　気付かれないように振る舞っていたつもりではあったが、どうやら気付かれてしまったらしい。

　クーリアとしても、魔力が貰えるのであれば願ってもないことだ。
　しかし、魔力に関して殆ど知識を持たない彼女は、それを平然と受け取っていいものなのか判断できなかった。
　悩んでいると、彼は突然横に姿を現した。

　彼はクーリアのエンブリオ、名はシ・ドゥという。

　大丈夫とは言っているものの、不安そうだ。

ぶーぶー文句を言っているが、半分持って行かれるとまあ納得顔になった。半分にしても相当の量があることには変わりないが。
ほへー、とか言いながら珍しそうに浮遊するクジラの半身を見上げて。

シルフに切り分けをさせ始める少年を後目に、パロロコンは表情の読めない、爬虫類特有の眼で少女を見ている。

彼女の反応にはやや声色に驚きの色を滲ませて、

あまり見習うものでないさ、と、加えて言った。

問いに、一言、言葉を落とした。

吐き出した一言は平坦ながら、
ひどく、感情を滲ませたそれだった。

暫し考え込む。

伝聞に過ぎんが、と最後に加えてから。

と、そもそもそれをよく知らない様子で、首を傾いでみせた。

神ならば、許されるのかね。
実感の湧かなさそうな声だった。

あまり、会いたくはないな。そう言った。

ちょっとしどろもどろ、息を吸い込んで、落ちついてから。

君のほうを期待を込めた眼差しで見つめている。

ぱくっ