◎かしこいネズミの話

昔々、或る時、或る場所に、痩せ細った若竜がいた。

飢えた竜は、藪中で小虫を齧る灰色ネズミを見付け、此れに尋ねた。


やい、小さなネズミよ。

俺はとても腹が減っている。もう幾日も腹を空かせている。

なのに、みんな俺の姿を見るや一目散。気付けば果ての彼方だ。

弱いお前が飯に有り付けて、俺が喰えぬのはどうしてだ。


ネズミは藪から鼻先を出して答えた。


それはだね、あんたの大きな爪と鋭い牙が怖いからさ。

だが心配は無用、あんたには立派な翼がある。

大空から飛び掛れば、どんなヤツも不意を突かれてお陀仏さ。

あんたは鷹になるんだよ。


*　*


昔々、或る時、或る場所に、飛翔上手な若竜がいた。

活力を取り戻した竜は、巣穴の前で駆け回るネズミに尋ねた。


やい、小さなネズミよ。

最近、俺の狩りが上手く行かぬことが増えて来た。

どいつもこいつも、地に映る俺の影を見るだけで一目散。

一体どうすれば、以前のように鱈腹喰えるのだ。


ネズミは足を止めて答えた。


そんなことは、とっても簡単。

要はお天道様の機嫌を、損ねないようにするのさ。

陽光に逆らわず、夜と闇に紛れれば良い。

お前は蝙蝠になるんだよ。


*　*


昔々、或る時、或る場所に、壮健なる若竜がいた。

日々体躯を大きくする竜は、傍らに座るネズミに尋ねた。


やい、小さなネズミよ。

昨日は、山の主を名乗る大きな熊に出会った。

ヤツは俺の影を見ても怯えず、真っ向から挑んで来たぞ。

あの熊は何故、俺を見ても逃げなかったのだ。


ネズミは僅かに頭を上げて答えた。


それは熊の野郎が、無知だったからさ。

だからあんたの怖さを知らず、今はめでたく腹の中。

自分を強いと思ってるヤツほど、己の身の程を知らないモノ。

どいつもこいつも、俺みたいに賢く生きなくちゃ。


*　*


昔々、或る時、或る場所に、威風逞しき成竜がいた。

雄々しき竜は、己が肩上にゆるりと寝そべるネズミに尋ねた。


やい、小さなネズミよ。

どうしてお前は、俺の傍にいるのだ。

俺が食事に困らぬようになったのも、お前のお陰。

だが、お前に良きことが何か在ったのか。


ネズミは身動き一つせず答えた。


それはまた、随分と今更だね。

何と言っても、此処が一番安全だからさ

おいらは小さな虫さえ喰えれば腹が膨れる。

あとは大きなあんたの近くにいれば、死ぬまで安楽なのさ。


ネズミの言葉を聞いた竜は、少しの間押し黙り。

そうして、再び大きな口を開いて言った。


やい、小さなネズミよ。

ならばお前を、俺の中に住まわせてやろう。

その代わり、お前のその知恵をくれ。


そうしてネズミは食べられた。



*　*　*



ついぞ竜には、生きたネズミの言葉は分からぬままであった。

やがて竜は子を為し、荒地で人に狩られて死んだ。

思考する。
誰かに気に掛けてもらえなければ、私はこのまま迷い続けるのだろうか。
こうして苦しみ続けて、そのまま闇の中へと消えていくのだろうか。
――それだけは嫌だ。

でも、そうしてくれる人は私の周りに誰が居るのだろうか。
自分自身でそうするなんて事は、私には考えられない。
だからといって、『彼』は――今の彼は、私が触れるには冷たすぎて。

目の前の存在は私に、自分で自分を磨け、と言っている。
自分を自分の持ち主とすれば、道を見つける事ができるのだと。
それは。それをする事ができるのであれば。許されるのなら。

パンッと両手を鳴らすと、コルリのいるあたりから煙が立ちこめ周囲を覆った。
小さなからだをその煙が全て覆ったあと、黒い巨大な影が出現した。

ヘビのような長い体躯、張り出した腕には鋭い爪がみえる。
飛翔し一声吠えたかと思うと急降下して地面に激突する。
煙が晴れると、そこには元の半人半妖の姿のコルリがつかれた顔をしていた。

微妙に余裕の無い感じでそういうが、先刻と比べて何かが足りないぞ

どこか悔しそうにしながら女性の顔をじっと見つめる。
そして手を水平にして2人の身長差を再確認しているようだ。

もはや破れかぶれという気もしないでもないが、相変わらず弱気に答える。
叩かれることで地面に当たり、相変わらずゴムボールのように跳ね返った球体が2人の間をよぎった。
……ただ、先程までとは異なり、球体内から放たれている光が若干チカチカと明滅しているようだ。

やはりそう簡単にいい方法は思い付かないようで、少年はぐるぐると女性の全身を見回し始め。
その後、屈んでもらったり、服の袖を捲くってもらったり、髪をかき分けてもらったりと色々な手法を試している。
最終的には、自らの手で女性の全身をぺたぺたと触り始めた。

いつの間にか、少年は自分が女性の腹部や臀部など、かなり際どいところを触っていたことに気付き赤面する。
ただ今更引き下がれないのか、或いは少年なりの意地なのか…。
それを言葉には出さず、執拗にそれらの行為を繰り返している。