私はそこまで書いて、ペンを置いた。さて、ここからどう書こう。
　一揆に加勢してから、もう、結構な日が経つ。
　色んなひとと、出会った。

　例えば。
　アリシアとルカ、シズたちは、別の世界から来たと言っていた。
　でも、彼女たちとは仲良くやれている、と思う。
　アリシアは少し真面目過ぎるけど良い子だし、
　ルカは明るくて元気が良くて、見ているとこちらも元気づけられるくらいだし、
　シズは素っ気ないけど、何だかんだで気にかけてくれたりもする。
　他の世界に住んでいるひとでも、案外、私たちと変わらないんだな、とも思ったりした。

　例えば。
　『軽トラ』と言うものであるトラ吉（ギャリィ？　タイガー？）と、何でも無い屋（私は半分くらい無職だと思う）のトートのコンビは、衝撃的だった。
　森を出なければ、絶対に見ることは無かったと思う。
　話してみたら、まあ、面白いひとたちだったけど。

　例えば。
　トーコとウィルには、すごくお世話になった。
　トーコとは話していて楽しかったし、友達になれたかな、と思う。
　貰った紙（ぷろふぃーるしーと？）も渡さないといけないから、また会いたい。
　ウィルには、……うん、すごく、お世話になった。
　今度会ったら、改めてお礼を言いたいな、と思う。その時は、ニコおじさまも一緒だったら良いけど。
　二人には、守られてばかりだった気がする。次に会う時は、もう少し、私も強くなっていたい。

　例えば。
　偽はお人好しだけど、それだけじゃない何かを持っているように見えたし、
　アマリアはあんなに小さいのに強い子だなって思うし、
　メィレーは不思議なエンブリオを持っていて、彼女自身も不思議だし、
　フィーグルは魔王らしいけど、何だか可愛い性格をしていて、
　天臥は、何と言うか、今まで会ったことがないペースの人だったし、
　さっくんは正体を含めて何だか謎だし、
　フィーナは、事情が複雑そうだけど人が好いんだろうと思うし、
　万已楽みたいな子は見たことが無かったし、
　ラディは最初、ウルヘアと大変だったけど、悪い人ではなさそうだし、
　パオパは気さくな人で、エンブリオは可愛いし、
　花冠はその身に宿すものは恐ろしく感じたけれど、彼自身はきっと、そうではなくて、
　あのよく分からないにんじんは、何か、怖いし、
　ミクネは人懐っこい感じの子だけど、元の世界に戻ろうとしていて、
　クロウはウルヘアのことを気に入っていたようで、
　ヤドランカは話していてほっとする。

　例えば。
　ミハウは、……まだ、よく分からないところも、多い。
　その割には、酷いことも言ってしまった。
　けれど、謝れて、名前で呼んでほしいことも言えたから――これから、だと思う。
　優しいって言うのと、料理が上手いって言うの以外にも、彼の良いところはあるはずだ。
　そう言うのが分かっていけたら良いな、と思う。







　書き進めてから、少し悩む。上手くやっている、と書いても、良いのだろうか。
　……まあ、良いということにしておく。
　少なくとも最初に会った時とか、つい最近までよりは、マシなはずだし。







　ニコおじさまのことは、気がかりだ。
　途中で会う一揆衆のひとたちにも、話を聞いてみたりはしたが、全然見つかりそうにない。
　もしかしたら、と思うことも、ある。けれど、直ぐにその考えは振り払う。
　ニコおじさまは、……きっと、どこかにいる。

　他にも、変なモンスターが居るだとか、新王側の人間と会っただとか、書き切れないほど沢山のことを書いた。
　それくらい、一揆に参加してから、色々あったのだ。







　最後にそう書いて、私は手紙に封をした。
　後は、この手紙が届くことを祈るだけだ。
　いくらかのネクターを片手に、杖に括りつけられた薄紅色の結晶を手に取る。

「『朝の陽射し。昼の木漏れ日。夜の月明かり。あなたは、目を覚ます。』」

　母様に習った詩。それを詠ずれば、結晶は光を帯び、徐々にその姿を変える。
　父様が預けれくれた、フェアリーのエンブリオ。この子に、手紙を託す。
　蝶の様な姿をした彼女は、ひらりひらりと辺りを舞った。
　その辺りに、ウルヘアもいるのだろう。はっきりとは分からないけれど、エンブリオ同士で何か話をしているんだと思う。

「ヴァロ、お願いね」

　動きが落ち着いたところで手紙を渡せば、ふわりとそれも風に吹かれて舞う。
　蝶々は一度こくりと頷くような素振りを見せた。

「ありがとう、……気を付けて」

　私がそう言い終えれば、彼女は直ぐに飛んでいった。私たちが、進んできた方向へと。
　ずっとずっと遠くまで行って、彼女が見えなくなるまで、私はそこから動かなかった。
　ふと見た平原の花々は、とても一揆に行くための道とは思えないくらい、美しく咲き乱れていた。

（キャラ投票、ありがとうございました！）

　ウルヘアは上空をくるりと旋回した。
　進攻方向へと視線を遣れば、短く一鳴きをした。
　――敵のお出ましだ。

巨大な氷の塊が後方から降ってくる！！

ウルヘアの言葉に自分と近しい雰囲気を感じて
思わず笑みをもらす。

訊き返されたコトカの言葉に頷き、

前に翳したアマリアの両手の先にうっすらと透明な障壁のようなものが現れ、
微かに光を反射したかと思うとすぐに消えた。

斬り捨てることができるのか、と。
コトカのその問いに対しては、あまりにもあっけらかんと答えてみせた。
躊躇いも恐怖も、何一つ感じさせない。

そう言って、ウルヘアへと視線を向けた。

どことなく元気のない様子である。
おそらく台詞を非実在少年に奪われたからだろう。

にんじんの背中から翼が生えている。唐突である。

――あれから、数日経って。

何事かを考えながら、手にした古びた手帳を眺めていて。
ふいに顔を上げて、コトカへ目を向け。

初めて呼んだ時ほどの過剰反応はないものの、
未だ慣れない様子で呼び掛け直すと、問いかけを発し。

(身体をじーっと見ていたかもしれないがきっと気のせい)

　語彙力の欠片もない。馬鹿だが本人は至って真剣な様子。

　ばつが悪そうに視線を逸らす。痛い所を指摘されたと言いたげな表情。

　ちらり、と一度ミハウを見た。
　直ぐに視線を敵へと戻す。

　ウルヘアは大きく羽ばたいた。

息をついて辺りを見回し、脅威がないことを確かめてから武器を下ろす。

そう言って材料を引き取って、――数十分後。
機嫌良さそうに彼が湯気を立てる器を持って戻ってきた。

最早招来の舞というより、好き勝手に羅列しているだけのように思えるけれど、
本人は至って真面目な上に、乗り気だった。ぴょんこ、ぴょんこ。