ギスギスした空気が流れる。少なくとも数日前と比べると、明らかにギスギスしている。
ミモザはいつぞや以来不安定になった気がするし、ヘイアンは最初に戻ったっていうかそんな感じの不機嫌さを醸し出している。かもすぞ貴様。
こうなるといよいよ肩身が狭いというか、私が何かしなきゃいけない気がするっていうか。でも野暮な真似はやめろと私の悪魔が囁くのです。黙れ怠惰め。
そんなこんなで、今日も悩みながら二人にお茶をいれている。何故私がお茶汲みなんてしているのかと思うが、その理由は何もしていないと思考のループに陥って死にそうになるからである。
私の分のお茶はない。理由は味の分からないお茶よりミネラルウォーターの方が余程おいしいからである。

そんな折、何を思ったのかパーティの分割の提案がなされた。誰がしたのか、何でしたのかは覚えていない。何故なら空気の気まずさに耐え切れずろくに頭に入ってこなかったからだ。
……現在は、休憩中。基本方針は立てたので、後は各自の行動計画を立てるだけ。
私は今、川辺で体育座りで悩んでいた。具体的には痛み始めた胃のケアについて。川で遊んでいるリヴィの姿だけが今の癒しである。今後なんて考えたくもない。

『…………む』

「……何？シィル。何かあった？」

突然声を上げ、実体化するエンブリオ。その目の先には、間近に迫った草原がある。
……そういえば最近この辺りには近付いていなかった。何か感じ取ったのだろうか。

『……草原の方から、強い力を感じる。探しに行くぞ』

シィルが行き先を示す時は、大体がエンブリオ絡みだ。それも特に、風の力を持ったエンブリオ。
今までは草原に行くような暇はなかったが……先に述べたように、今は好都合にもパーティの分割期。戦力の増強になるのなら、リーダーも何も言うまい。
ただこう、行くのなら一人で歩くことになる。それはめんどくさいっていうか、なんていうか。いや、うん。ちょっとだけ駄々を捏ねてみる。

「……いや、まぁでも、一人で行っても見付からないっていうか」

『丁度いいじゃあないか、あそこに募集の張り紙があるぞ』

目を遣った先には、確かにメンバー募集の張り紙がある。それが本人によるものか、それとも宣伝屋の仕業かは知らないが。
メンバー募集。全4名。目的は『スレイプニル』の捜索、捕獲。

「…………よし」

ここまでお膳立てされては、行かないというわけには行くまい。丁度いい、分割に乗じてしばらく胃を休めよう。
そしてナビ＆アンジェ、君には単独行動を申し付ける。なぜなら君は我らっていうか私の最終兵器だからだ。今のうちに自律行動をしておいてほしい。

「……でも、見付からなかったら諦めてね」

『ふざけるな、必死で探せ。見付からなければ何とかして呼べ』

「そんな無茶な」

これで、暫しの時間が出来る。各々、今の自分やそれぞれの関係を見直す機会となるだろう。無論、私にとっても。
私はあの人たちに何が出来るのだろう。そんな大層なものを抱えていないのに踏み込んでいいのかという悩みもある。
……が、こちらは何の変哲もない一般人なので、これ以上胃が荒れるのは嫌だし、仮にも友人と呼べる程度の間柄の人物がギスギスしているのも嫌だ。
最悪の場合のことを考えて、今のうちから対策を練っていこうと思う。こういうの苦手だけど、他に人がいないんだから仕方がない。

「まあ、何とかするしかないよね」

形振り構っていると共倒れになる気がする、使えるものは何でも使おう。別にあいつら真っ直ぐ育ったわけじゃないから文句言われない気がするし。

――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――

☆スレイプニル招来の儀式☆

やり方が分からないので、『にんじん』を用意しました。

終わり！

冷蔵庫からもうひとつのボトルを取り出して、見つめる。

別に彼女の事を信頼していないという訳ではない。
だが、ちょっとすっぽ抜けて自分に刺さった時の事を考えてしまっただけだ。

　少女がナチュラルにそう言う一方、イヌワシはクライの方をじーっと見ていた。