ウィリンは雑草のエンブリオである。

雑草という概念は、人間がつくりだしたものだ。一般的に、雑草というものは、農作物の生育に必要な養分を間借りし邪魔になる植物であったり、劣悪な環境でもいつのまにか自然と増殖しているような植物のことを指す。人間以外の、たとえば牛や馬にとってすれば、草というのは食べられる草か食べられない草かというだけだろうし、雑草自身ですら、自らが雑草であるという認識など持ってはいないだろう。雑草を、雑草と決めているのは、あくまでも人間だ。

さらに、ある種の植物が、雑草であるかどうかは、見る人によっても異なるだろう。植物の研究家にとってしてみれば、どんな植物も名のある植物であり、雑な草など一つもないというかもしれない。また、全く植物に興味のない人からすれば、道端の蒲公英も、植木鉢で育てられた菫も、畑に並ぶ馬鈴薯もすべて雑草だと考えるかもしれない。

では、雑草のエンブリオと称するウィリンは、どのような雑草なのだろう？

といったことを、ウィリンに聞いてみたところ、本人としてもわからないらしい。意識が合った時から、雑草のエンブリオとして存在し、ただただ周りの雑草を見守っているのだという。最初から、自分は雑草であり、また雑草のために生きる存在である、と思っているそうだ。僕の推測だけれども、ウィリンは人間の思念と魔力が集まって生まれた精霊のようなものなのだろうと思っている。どんなものでも人間に観測されれば、何かしらの意思になる可能性がある。とくに、魔法世界ではよくあることだ。

それから、ウィリンにとってはどのような植物が雑草とであり、どのような植物が雑草でないのか聞いてみたところ、このような答えが返ってきた。

「わたしが雑草だと認識するのは、厳しい環境に流れ着いても、雑草の意思を持ってたくましく生育しているものですね」
「たとえば、同じ蒲公英でも、肥沃な土地でぬくぬくと育つ蒲公英よりも、舗装された石畳の間に生え馬車に轢かれても育つ蒲公英のほうを、私は雑草なのだと認識するのです。植物学上の分類と、雑草という概念は別なんだっておもいます」
「たくましく生きるそれが、植物かどうか、ということですら、わたしにとってはあまり重要ではない気がします」

とのことらしい。彼女は彼女なりに、雑草という一つの生き方を捉え、彼女の考えるところの雑草を、これからも応援していくのだろう。

ミオの影が伸びるようにして、影法師の黒いうさぎのぬいぐるみのようなものが現れます。
どうやらエンブリオのようですが……。

そう言いながら、ふわりと舞って、小さいお皿のカレーを手の中にだします。
さぁさぁと、ちょっと強引にソラメロさんに差し出すのでした。

実際にカレー作りを止めたことは無いようです。

鳥が種族的に苦手なので、キラーインコとの契約はちょっとした地獄だったそうです。
契約して依頼はどっかへ飛んでいったまま、顔を合わせていません。

前衛には自信があるんですよ、とその言葉には、少しだけ目を眇めて。