人を化かす、驚かすのは狐の醍醐味とでもいいましょうか。
狸の連中も、そのようなことをするにはするけれど、すぐに露見して失敗することがおおいですが、コルリたち狐はそんな下手を撃つことはないわけです。

夏の夜、川辺で火を浮かべていると翌日には集落で噂になり、やれ幽霊だなんだと騒がれたこともありました。

このナイトスピリットというエンブリオは、その火と結構姿が似ていて、なるほど、実際にこういうのがいるから騒がれたのだなあ、と今更になって得心したところです。

黒い火のような不定形の姿をしたこのエンブリオはふわふわとあたりを漂っていてこちらの問いかけに答えず、ただそれでも力を求めると貸してくれます。

これが「魂」というものなのだとして、誰の体の中にもあるのだとしたら。それを認識できたなら、肉体と魂を分けることもできるのかもしれない。
それが出来たなら、この胸の奥に眠る火のエンブリオを取りだすこともできるのではないか。あの白狐がした（と言っていた）ように。
なんて、ぐるぐる考えながら森を歩きます。

森にはたくさんの生き物がいるし、たくさんの生き物が死んでいるので、目には見えない、「魂」が充満しているのかもしれない。空気が濃く、重く感じられるのはそのせいなのかもしれません。

ふっ、と軽く笑った。

ほんの一瞬、男の微苦笑が見えたかもしれない。

吸い寄せられるようにふらふらと手をのばす。

じりじり、と君の後ろに回ろうとしてくる。