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「二人共、互いの話は聞いていると思うけれど、これから相棒になる相手の事だ、さらっと確認しておいて貰うよ」

相対するわたしと男の子の間に、少し軸をずらすように立ち。
推理小説から抜け出てきたようなトレンチコートの男の人が、注目を促すように人差指を立てた。

「まずは『鬼人』から。鬼と名のつく種は沢山あるけれど、
　これはその中でも、群体であるとか自殺志願であるとか言われる、あの鬼だ」

「抱えている爆弾は、『闘争用人格』、所謂二重人格というやつだね。
　尤も、所謂精神病といったソフトウェアの問題よりは、ハードウェアの問題に近いようだけれど。
　現象としては、極度に戦闘思考が高まったり、人間として死に瀕する状態になった時に主人格を押しのけて他人格が現れる。
　……そして今のところ、他人格は周囲に在るものを鏖殺しようとする傾向があるようだね」

加除訂正はあるかな、と聞くトレンチコートに、対面に座る男の子は沈黙で応える。
では質問は？と彼はこちらにも振り向くが、わたしも特に訊きたいことは思いつかなかった。
ただ、少しの切欠で周りに死を撒いてしまうのが自分だけで無いことに安堵し、その安堵に罪悪感を覚えていた。

「そして『バンシー』だ。こちらもそう呼ばれる種は一つではないが、泣き声と死が共にある、と言われるのは、概ね共通しているね」

「抱えている爆弾は、『泣き声を聞いた者の生命力を奪い取る』という現象。
　仮に何らかの拍子に泣いてしまったら、声の届く場所にいる人間は、概ね生き残れないだろうね」

正確に知るべきだとはいえ、遠慮のない物言いに身を固くする。
トレンチコートはそれを知ってか知らずかわたしに背を向け、今度は質問の有無を先に問う。
それまで黙っていた男の子が、初めて口を開いた。

「で、俺も死ぬの、その声で」

予め質問を知っていたように、長身は小揺ぎもしなかった。

「長く聞き続ければ死ぬね」

「すぐじゃないなら、意味がないんじゃないか」

「……意味、って？」

口を挟んだわたしの疑問には、長身が応える。

「彼は、互いが互いのための"生贄"なのではないのか、と訊いたんだろうと思うよ。
　片側の爆弾が爆発すればもう片方が誘爆して、"ひとりの犠牲で"鎮火する仕組みの筈のではないかとね」

その言葉を裏付けるように、男の子が続ける。

「だけど、現実は違う。俺の爆弾が爆発したとしてもあんたは『鬼』を止められないだろうし、
　あんたの爆弾が先に爆発したとしても、即死でない以上生命の危機を察知して出た『鬼』にやっぱりあんたが殺される。
　無駄に死の確率を上げてしまうだけで、このコンビはあんたにとって何のメリットもない」

「いやいや、生贄云々っていうのは、ただの君の的外れな深読みだからね？
　爆発させないように上手くやんなさいよ。多分、そう……似た境遇なのは、偶然だと思うから」

「思ってもいない言葉で説得しようとされても困るけど」

わたしを蚊帳の外にして、トレンチコートと男の子の間に険悪な雰囲気ができあがっていた。
わたしはといえば、二人の言葉を反芻して、ようやく言わんとすることの一端を掴んだところで、

「とりあえず、……ごめんね？わたしじゃ、止めたいものを止めてあげられなくて」



二人が、言い争い寸前だったことを忘れてしまったように、呆けた顔でこちらをみていた。



「……こういうの、暴走しちゃって処分されるより辛いよね？」

トレンチコートの言葉に、男の子は苦い顔をして、やっぱり沈黙で応えた。

そんな顔合わせを経て、わたしとあの男の子は、互いに互いの"相棒"である、ということになった。

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花蓮は露の様子をみて小さく微笑むと、男の声に反応してそちらを見た。

花蓮は少しはぐらかすような言い回しをした。
だが、話すことを放棄する、というよりも言葉遊びを楽しんでいる、という様子である。