■Give an inch to get a mile...

この世界で“契約”を結んだエンブリオと呼ばれる存在達の能力は、愛用の精霊剣に据えられた“神聖石”を媒体にして行使する形になる。

精霊剣を握っている間は常時柄の部分に流している微弱な魔力で、自身が振るうつもりの技に該当するエンブリオの能力を呼び出すよう神聖石を管理するアークに伝えれば、瞬時にそのエンブリオの能力を発揮できる形状に精霊剣の属性のようなものが変化する……という仕組みだ。
所要時間は一秒にも満たない。
小刻みに、対峙する敵に合わせて繰り出す技を切り替える事も可能になる。

どこの世界でも毎回属性精霊含め、その世界に対応した存在と契約を結ぶ手順を踏むのだけは不便だが、そこをクリア出来れば知りうる限り１０強程度なら、アークの管理下で能力を行使出来る。
この特殊剣が自身が魔術が不得手な部分を大きく補足してくれているのも、今では重々承知だった。


よって出来るだけアークや自身と相性のいいエンブリオを探して契約を結んできたつもりだった、が。
何処の世界でも大きな力の行使には、代償が必要となるケースもある。


一度試し撃ちで挙動を確認した程度では確信がもてずに居たが、実戦でも同様の反動があるとなれば、これはもう覚悟で使うしかないのだろう。
それが判ってからは両腕の篭手にレシュに耐火結界を施す協力を仰ぐようにしたが、完全に全ての熱を遮断は出来ない。
ましてや撃った瞬間、相手に命中しなくても放った力の一部は必ず反射するようにして自身に跳ね返る始末。
しかし何度か使えば、安定性のある命中率を持つ高火力技とあっては、使い所を誤らずに扱う他ないという結論に至る。


「……っつー……そのうちこの手の技持ってるエンブリオ？だっけ。大体何処でも火属性のヤツは気性も荒いし、こーゆーのもあるだろうとは思ってたが……程ほどにしないと自分が先に燃えカスみたいになるよな、これ」


ぶつぶつ言いながら、戦闘後の手当てを大雑把に済ませる。
適当に近場の水辺でちらほらと焼け焦げの見える手袋を乱暴に外して、軽い火傷等を負った負傷部位を水で暫く冷やす。

終わればレシュに簡単な治癒術を施して貰って気休め程度の薬剤を塗って包帯を巻いて処置終わり。
後は自身の回復力に任せる程度。

これ位なら連戦で酷使しなければ、然程影響もない。
手袋の焼け焦げ程度なら“虹音”で破損部分を後で修復して間に合わせる。

作製にも応用しているように、この特殊能力は何らかの無機物・物質相手に使うのが一番簡単なのだった。


手当ての様子を見守っていた神聖石に宿る神聖霊、アークがふよふよと浮遊しながらマスターたるシェリィに声をかける。


「我が出来るのは複数の宿した力を管理する所までで、そのエンブリオとやらの個別の能力をどう引き出すかはマスター任せになるからな。だが……高い攻撃力と引き換えに自身を削るような技はそうそうあって貰っては我としても困るのだが」
「私だって別に好き好んで使いたいわけじゃぁないさ。でもある意味最後に立ってた方が勝ちなんだし、威力が高くても当たり難い技使って長期戦で消耗するよりゃ、少々自分に反動があっても確実に早々に勝ちを取るのも戦術じゃないかい？」
「……やれやれ。血の気の多いマスターらしい意見よの。が、あまり無茶が過ぎるようなれば、我の管轄でかの能力を一時禁じる事も出来るのを、忘れぬようにな」
「はいはい、分かってるよ。他に安全策があれば勿論そうするさ。戦況次第、ってやつだよね」


そんな事を呟きつつ、腰に下げた愛剣を眺める。

この世界に数多く居る“エンブリオ”とやらの能力は、まだまだ未知数。
自身で制御しきる事は出来るのだろうか？

――いや、せねば生き残れないのが、この世界の有りようならば。
御さねばならない。
どんな不可解な能力でも、痛みを伴うものでも。
正しくそれを行使する事が可能になれば、それは“戦う力”ひいては“生き延びる為の力”となるのだから。


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――そんな覚悟を胸に秘める“主”の腰にある精霊剣の神聖石に宿る、光のひとつが。
哂うように秘めやかな揺らぎを見せたのには、未だ誰も気付いていなかった――。

辺りを見回しつつ、案山子の一行が歩いている。

珍しそうな反応を示されて、やや狼狽しながら許容して貰う。ここに来てからもそういう反応は良く見るようになった。

クレシュミエントの笑顔を見て満足気に微笑んだ。
そして彼女からの謙虚な申し出に一瞬目を丸くする。そんなことを気にしているのか、とでも言うように。

やや涙目なまま答える。

思わず、うーん、と考えこむ。

ぺこり、と頭を下げる

うまく言葉がまとまらないのか、やや曖昧な物言いをする。