木々の間を風がすり抜けてゆく。

そろそろ…潮時かもしれない。

「近々ここを離れて旅に出ようと思う。」
シアには予め伝えていた。
驚かれ、引き止められたが、おれの意志が変わらないことを理解すると
最後には黙って頷いてくれた。

…風は流れるものだ。

一揆参加当初、「なるべく誰かと進むように」というルリアンナの言葉を受けて
途方にくれていた少女の姿が嘘のように、今は多種多様なエンブリオに囲まれ、
すっかり賑やかな大所帯になった。
成り行きでよってくるエンブリオだけではなく、他の一揆参加者とも交流を持つようにもなった。
これからも、この子はいろいろな経験を積むのだろう。
ここでそれを眺めているのも一興ではあるが…
ここでの自分の役割はひとまず終わったものと捉えていた。

一番最初に彼女の中に感じた風は、より力強く吹き続けている。


………

…ほんの少しだが、おれの力をピクシーに分けたから
おれの様にとは行かないが、思うように動く為の助けになるだろ。

シアは、自分を納得させるように、二度、三度頷いた。
見ると、気を抜くと歪みそうになる表情をぷるぷるさせながら、笑顔で見送ろう、と必死に
表情筋と格闘している…。
こころがちくりと痛む…が、決めた事だ。ぐずぐずしていても仕方がない。

ふわりと風に乗る。

…ディーシャがパーティから離脱しました。

辺りを見回しつつ、案山子の一行が歩いている。

（問いに対する答えに、こちらも首を傾げる）

（なんだかひたすらにこにこしてる少女の様子に、ま、楽しそうだしまだ大丈夫か、みたいな顔をしつつ）

（髪の事に触れられるとは思っていなかったようで、グラスを持っていない方の手でひょい、と長髪の先をつまみつつ）

（いちいち付き合わされる我の身にもなって貰いたいものだな、と、シェリィが腰に下げた長剣の柄の宝玉から声が届く。どうやら髪の毛を乾かす折は少年姿の精霊に光系の術の補助を受けているのだろう）