何が起ころうと、どう状況が移ろおうとも、フィリアの毎日は変わらない。

朝起きて、いつものよう簡単な身支度を終えた後、自らの畑に鍬を下ろす。
成った作物を改修し、土の声を聞き、種子を蒔くか否かを偉大な大地に問い掛ける。
ただそれだけの、変わらぬ毎日。


強いて言うなら、その際に考えることが増えただけ。


より前へと進み、ついには城内へとまで押し入ることとなった一揆のこと。
そして、それを先導したアナスタシア――本来の意味での発起人であるルリアンナのことは余り意識していない――のこと。
この世界へ身体毎逃げ込まねば、やがては彼女の世界ごと消えてしまうらしい、少女のこと。

フィリアが見てきたアナスタシアという少女を踏まえれば、間違いなく最良の選択を取ったはずだ。
理不尽に、理由を多くは語らず、ただそうして欲しい、できるだろう、それだけを語りかけることが、きっと生粋の負けず嫌いであるだろう彼女にとって、尤も通用する挑発だろうと、そう思う。

これ以上、できることはない。
これで間に合わなければ、自分では彼女を説得するのは無理だった、それだけだ。
ただ、可能なら――。

彼女が、助かればいいのに――と。
そう思った矢先、思い切り背中を突き飛ばされ、耕したばかりの畑に顔面から倒れ込む。

突き飛ばした主を睨みつけながら、顔と服についた土を払う。
そうして払いながら……現状を飲み込み、自分が今し方脳裏に描いていた思考を、回想する。

そう、喜色満面な様子で盛大にドヤ顔を向ける、幾度も見てきたアナスタシア。
たった今、自分を『突き飛ばした』白と黒の少女。

フィリアの胸中に、一瞬、様々な思いが過ぎる。
安堵と、自らの杞憂に対する呆れ。
見た目は全く代わらない、ただ、地に足がついたアナスタシアの様への感想と……。

そう、自らの偉業を見せびらかさんとばかり皆無な胸を張ったアナスタシアを手招きし……。

何も考えず畑へと足をついたことと、自分を突き飛ばしたことに対する報復を胸に、思い切り首を締め上げた。

数分後、アナスタシアは無様なアヘ顔を晒した。








＋あ、これで宣言通りだからもういいんじゃねって顔をしてる２徹目クマヘッド＋

そんな、まるで意味の無い会話を交わしながらも、思わず表情を緩めてしまう。
とりあえずこれで、アナスタシアにとっての当面の危機は去ったと言えるだろう。

……実際、彼女の世界がこれからどうなるか、を考えれば楽観視もしてられないが……それを回避する条件を揃えることができただけ、上々と言えるのではないだろうか。

いや、楽観視は早すぎた。
そうだ、行き来が自由ということは……今度は彼女を、この世界に留める必要があったんだ。

さて、どう引き留めようか。
それを決めきらないまま、制止の声をかけた瞬間……アナスタシアが、表情を歪める。

そう、軽く笑うアナスタシアを見返しながら、若干眉を歪めてしまう。
時空座標の覚え違い……要するに、自分が元来た世界を見失ったと、アナスタシアはそういう旨のことを言ったのだろう。

……自分の推測が正しければ、それは恐らく、覚え違いではなく……。

……アナスタシアの実体化が、正に、紙一重だったというだけで。
彼女の世界は、恐らくもう……。