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ある年に祭りで出会った、泣き虫で、寂しがり屋の少年。
そんな彼を、今の彼と結び付ける事なんて、出来るはずもなかった。
笑い顔も怒り顔も呆れ顔も心配顔も。
彼の表情なら、きっと、彼の周りにいる人達よりも見てきたけれど。
涙を堪えるような表情はあっても、涙を流している彼を、私は一度も目にした事がなかったのだから。

……彼はいつ。私が私だと、気付いたのだろう。
彼は、会いたいと思って、此処に来てくれたのだろうか。

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（敗走に、伏す。）

　返答は、すぐには浮かばなかった。
　

　間を外した声は、ただそれ一言だけを象る。
　頭に触れる手を払い除ける事はしない。ただ何もせず、彼女のやりたいように、そのまま。無音の重さが増す前に、口を動かした。
　

　――思ったよりも、淡々としている。声も内も。経過か、あるいは摩耗か。
　何かを思ってくれる事は、有り難い事だ。だがそう思う事も、ただ『それだけ』では在れない。
　胸元に手を当てる、紫の感触を確かめて、眼を閉じた。
　

　大概がそうだ。きっとそうだろうと、こうなるだろうという予測が先に立ってしまう。悪癖だ、相手も状況も他人の性情も秤に掛けて。自分が何をすれば、どう動けばその天秤が揺れるかを、自然と第一に『推測』する。
　だから自分の行動に『純』に類するものなど、殆どの場合には皆無に等しい。感情が先行する事があっても、すぐに冷めて醒めてしまう。推測の後にある己の意図を通す為に。
　それが、自分が『渡り』を繰り返す事を是とした理由でもあるのだが。
　

　背負わせる気は、ない。他人の心に触れる程重い事も、そうそうあるものではないから。
　
　息を吐き出す。手を離して、眼を開いた。
　

　おかげで共鳴して大変ではあったけど、とは付け足して。そのまま手を伸ばして、意趣返しだと言わんばかりにその頭をぽん、と叩くように撫でた。
　

表情ではなく、声に。微かな戸惑いが滲んだ。
そして今まで思いもしなかった、と小さく付け足す。

少しの間。何かを考えるように、言葉が止まる。

やっぱり迷子なのかしら、と。
ぽつり呟いた言葉は、静かな寂しさを伴って、溶け消え。

人間、人間、人間―――――。
立ち塞がるのは、これで四回目よ。

柊魔異。──私にとっての、祈りの花。
いつの間にか、離れ難く思っていた。
差し伸べられた温もりを、等しく返したいと。
守られる事の方が、多いのかもしれない。
また己の無力さに打ち拉がれるかもしれない。
それでも私は、もう自分の歩みたい道を、見失ったりはしない。
あの日、微笑み返してくれた眼を、握り返してくれた手を、覚えているから。
この血は、この眼は、あなたが許してくれた事で、再び生き始めたのだから。

気付いたのは、先の戦闘の最中。
今は漂うように凪いでいる『風』へと、掬うように手を伸ばす。
──彼のそれと、同じ色。

　　　　インコが


　　　　　　　　岩石を



　　　　　　　　　　　　ぶん投げる！！

　流した！！