必要なものは、全て壁の中にあった。
或いは、自分たちが必要だと感じたものは、常に用意されていたと
言った方が正しいのかもしれない。
尤も、それは武器であったり、治療に使うものであったり、
つまるところは壁の中で日々を過ごしていく上で、
なくてはならないものでしかなかったのだが。

そして、それは環境さえも同じで。
川の畔、雪の平原、舗装されていない道路。
どこにそれだけの広さがあったのかは今となっては謎だが、
想定しうる戦場がいくつも用意されていたことだけは、よく覚えている。


けれど。
この世界に来て初めて目にした青は、自分の知っていたそれとは
全く異なる色合いで、視界を圧倒した。

（これが川、なの……？）

戦闘だけはセオリー通りに終え、ひとつ、息を吐いて。

流れる水にそっと手を浸せば、想像以上の冷たさに体温が奪われる。
深いようで透き通った色は、陽の光を跳ね返しているのか眩しいほどで、
それはとても、綺麗で。

（不思議、だわ）

記憶の映像と情景は似通っているのに、外の世界に出るだけでこうも
違うのかと、言葉を失わざるを得ない。

状況を考えれば楽しみになどするものでも、できるものでも
勿論ないはずなのは解っているのだが。
ほんの、少しだけ。

この先に控える未知に跳ねる心を、片隅で確かに感じ取った。






（ちきんれーすにまけたというよりはたんじゅんなねたぎれだとかいうそんな、そんな。）

それとも付いてきたのかしら、と顔の見えない少女を一瞥する。
その声に、敵意は含まれていない。
多少の呆れ程度は、入っていたかもしれないが。