ディグリース・インダストリー外部営業記録　〜１０日目〜

　くいっ

　何やら馬車の裏で

　一人タブレットのインカメラに向かってポーズを決めている社長夫人がいた。

「エミリー、たまにはインディストラに戻って一緒に夕食でも食べないか？」
「いいね、いいね！　インペリアルホテルの屋上レストランがいいー！」
「最近エミリー外食続きだったから、飽きてないかい？　たまには私が何か作ろうかと……」
「あ、それならコルトくんのご飯がいいー！　あれにしよ、ビーフシチュー！」
「ふむ、だとしたら仕込みに時間が必要だな……なるべく早く仕事を片付けることにしよう」
「えへへー……楽しみにしてるね！」



☆ディグリース夫妻、久々に夫婦団欒の時を過ごす。もう１回振る。

ウンディーネの必死の消火（？）活動により黒焦げから回復したカーライルだったが、冷たい水を浴び過ぎたせいでブルブルふるえている。

その時、視界に湯気を出しながら近づいてくるドラム缶の姿が目に入る。

ずぶ濡れになって身を震わせているししょーに、申し訳なさそうにそう告げている。
が、言いながら農これをプレイしてタブレットを弄っている辺り本当に悪いと思っているんだろうか。

またエミリーの中途半端な映画知識が発揮されている！
キラキラと目を輝かせながらドラム缶風呂を指さしている！

軽快に走り寄ってくるドラム缶をビックリ顔で迎え撃つも、
冒険家師弟が“温泉”だ“風呂”だとはしゃぎ出すや、更にビックリした様子で運び屋の方を振り返る。

どこかずれた感動を呟いている。

御者台から遠くを覗くように手のひらを目の上に当てれば…

幌馬車の中へと振り返れば、“それ”が当然のごとく破顔する。

仔犬は呆然とした目で、ポーズを決めつつ自分を撮影している現役17歳（下腹たぷたぷ）を眺めている。

霊的なアレや魔法的なソレではない事はどうにか理解したらしい。

難しそうな事を言っているが、主人の受け売りが大半である。

手榴弾というものは見たことがないらしい

見られていたことに気づいていなかったのか、突然話しかけられてびくんと肩を震わせる褐色の少女。

褐色肌、長耳の少女は名刺を受け取ると、そこに目を通す。

急に渡された名刺に小首を傾げる少女だったが、ややあって納得したようだ。

提示された金額の膨大さに、小1の金銭感覚が全く追い付いていない様子。

女は周囲の物品を観察するように見回した後、少し胡散臭そうに口を開いた。

そう言うと端末のスウィッチをオフにする。

……だが、どうやら爆発せずに済んだようだ。

本当はまだセクハラの件で怒っているのではなかろうかコイツ！
ずるずるとししょーをドラム缶風呂へと引きずり込もうとしている！

元気いっぱいのドラム缶。
なみなみ注がれた温泉は、どうみてもぐつぐつ煮えたぎってる！

軽口とは異なり、真剣な瞳で大弓を構えれば、
今にも“おんせんどんどん”と歌いだしそうなドラム缶に矢を番える！