その言葉を聞いた瞬間・・・
今まで静かな面持ちで話を聞いていた仔犬の表情が、

冷たい、冷たいそれから、

─ひどく歪んだ物へと変わった。

それは"憎悪"。


最早、恐怖も畏敬も、彼女の中には残っていない。
決定的な一言を放った相手に対して、彼女が初めて見せるその顔は・・・


嫌悪と激怒の中に害意を叩き込んだ、"敵"を見る表情だった。

仔犬が空を仰ぐ。

どこか遠い目をして、空に浮かんだ雲よりも遥かに遠い場所に、思いを馳せる。

目を閉じて、ここに居ない相手に謝罪する。

自分が今から戒を破る事を、居場所さえ定かでない相手に謝罪する。



・・・・暫くの沈黙の後。









仔犬が、その細い二本の腕で持ち上げた、その巨大な一本の斧を、
嬉しそうな笑顔で宙に浮かぶ妖精の脇を掠めるようにして叩き付けた。

草を薙いで地を穿った斧は、土を抉り石を砕き、大地に一本の罅割れを刻んだ。

途轍もない速度と、それに伴った重量を与えられた斧の分厚い刃は、その大半を地の下へと埋めている。

その整った顔をいびつに歪めた小さな仔犬が、
獲物に向かい顔を歪め唸りを立てる猟犬のように、顔をひどく歪めた仔犬が。

主人から与えられた"敬意"も"礼節"も忘れ、一匹の怒り狂う獣と化しつつある赤毛の仔犬が。

歪んだ口元から、鋭い牙が覗く。
敵意の結晶のような四本の牙が鋭く輝く。

仔犬が、その大きな両の目を敵意に見開く。
次の一撃に備えて全身の筋肉が強張る。


彼女が全霊の敵意を持って対峙している相手は、あるいは神にさえ匹敵しかねない"夢を司る妖精"。
ただ小さな仔犬である彼女がいくつの命を投げ打っても、到底届く類の物ではない。

その程度の事は彼女も理解している。

それでも。
その相手と対峙して、それでも尚。


─ニヤリ─

しっぽさわさわ

　少し考えた後、スカルはルビーの頭を撫でた