
赤い空に視線を向けて、ほんの少しだけ意識をすると、すぐにログイン表示が浮かび上がってくる。
ログインを済ませてCrosse+Roseに表示される情報をある程度確認すれば、すぐに視線を空から外した。
景色は変わらないが、感覚として明確にログアウトをしたのを感じればフェデルタは小さく息を吐く。
呼吸に混じって僅かに火の粉が流れていくのを見れば、眉をしかめて煙草をひとつ咥えた。
リアルタイムではないにしろ、情報がすぐに確認できるのは有り難いが、これを統括しているシステムについては明かされていない。現実世界だと思ってるこの場所すら、もしかしたら精巧なVR世界なのでは、とまで考えてすぐに首を横に振った。
もし、何かしらの機械に統括でもされているのならあの深淵世界を嫌でも思い出してしまう。
あの頃の仲間達はよかったけれど、あの世界が好きだったかと言われるとあまり好きではなかった。
ひとりでに咥えた煙草の先端に火が点り、紫煙がゆるりと赤い空へと消えていく。
遥か昔、ただの人間だった身体は人としての死後、なおも何度も死を繰り返し、とある本の影響で人であることもやめた。
そもそも、何度も死を繰り返した存在が人だったのかと言われれば疑問は残るが。
"お前には、魔術やそれに類するものを操る才能があまりにも無い"
魔女の言葉が頭を過る。
そもそもの面でフェデルタと異能の相性は悪かった。けれども、不幸中の幸いか、彼の中でも炎の力とはまだ相性がいい方だった。
時間をかけて、手に馴染ませ、共存することは不可能ではない――筈だった。
"お前の身に宿す炎は、その中でも破壊の力が強い"
魔女は、そうも忠告した。
炎の中には再生や繁栄を育む力もあるが、フェデルタの身体に宿ったのは彼から全てを奪い去った炎だった。そこには、再生も繁栄も無い、ただ、破壊だけがある。
そして、それはついにはフェデルタ自身をも破壊しようとしていた。
あっという間に煙草一本、ほぼ灰になる。短くなったそれを手にとって握り締めると跡形もなくなった。
限界が近い、という認識だけはあるが、身体の方に異変は無い。フェデルタには、それが逆に恐ろしく感じられる。
唐突に、限界を迎えた時に何が出来るのかと考えるが、いい考えは浮かばなかった。
"力が使いこなせているのかと"
従者の皮肉めいた言葉を思い出せば自嘲の声が漏れる。そもそも、使いこなせていたら身の内から己が壊されること等に怯える必要もないのに。
一瞬とは言えない時間をまた感傷に使ってしまった事に気付けば軽く舌打ちをひとつして、いい加減足を進めることにした。
行く先はチェックポイント。そして、そのあとは束の間の休息時間。
しかし、先ほど確認した情報を見る限りでは守護者をすぐに突破出来る数が明らかに減っている。
次のチェックポイントも、簡単にはいかない筈だ。せめて、身の内に燻る炎で敵を焼き払う程度は出来ればいいのだが。
ベースキャンプで協力者と合流する話も出ている。少しずつ、状況が動き始めている証拠だと思いたい。
「フェデルタ」
とりとめの無い事が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく最中で、呼び掛けられた声は真っ直ぐにフェデルタの鼓膜を揺らした。
いつの間にかすれ違ったのか、追い越したのか、振り返った先にいたのはスズヒコだ。
その声と、顔を見てなんとなく"スズヒコがそこにいる"、と感じた。
確証は無いが、彼の中で少しは気持ちがまとまったように見える。
「ナイフを貸して」
返事も待たずに告げられた二の句は、全く予想外の言葉でフェデルタは面食らった顔をした。ナイフで何をするのか、というのが気になりはしたが、黙ってシースごと外したナイフを差し出した。
「手、切るなよ」
元より手入れを怠ってはいない。何をするにも、ナイフとして十二分に働けるそれを渡す際にそう返した。
言
いたい言葉がなかった訳ではないが、これが一番いいと思った。
スズヒコは黙ってそれを受けとると、自分の道を歩きはじめていった。離れていく気配に寂しさを覚えたが、どうせすぐに会える事もわかっている。
フェデルタはもう一本煙草を取り出し、火をつける。それを咥えたたまま、再び歩き始めた。
紫煙がゆらゆらふわふわと、空にのぼっては、消えた。

[844 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[412 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[464 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[156 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[340 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[237 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[160 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[97 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[41 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[17 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
ぽつ・・・
ぽつ・・・
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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白南海 「・・・・・ん?」 |
サァ・・・――
雨が降る。
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白南海 「結構降ってきやがったなぁ。・・・・・って、・・・なんだこいつぁ。」 |
よく見ると雨は赤黒く、やや重い。
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白南海 「・・・ッだあぁ!何だこりゃ!!服が汚れちまうだろうがッ!!」 |
急いで雨宿り先を探す白南海。
しかし服は色付かず、雨は物に当たると同時に赤い煙となり消える。
地面にも雨は溜まらず、赤い薄煙がゆらゆらと舞っている。
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白南海 「・・・・・。・・・・・きもちわるッ」 |
チャットが閉じられる――