【注意】
ギャグなし&モラルハラスメント系の胸糞展開が含まれます。
苦手な方はどうぞ閲覧しないようお願い致します。
08:冠 [カンムリ]
【 Type:E 】
Section-B
絶望とも呼べる状況の中、娘は唇を噛んだ。
気配
足音
鍵
シリンダーが回る音
隠れる場所はない
あってもやり過ごす程の時間はもうない
リミットまで幾分もない
出来なければ死
自分が、ではない
彼等が
『 … 絶 対 に 此 処 か ら 持 ち 出 し て や る…っ ! 』
それが"引き金"だった。
・・
苦く噛み締める中、ふと自分の中に在ることに気付いた。
在る。
自分の中に。
それが何であるのか、どういうものであるかと意識するよりも早く、その名を口にした。
Cloak Room
創ったのだ。
その存在に気付くと同時に、今まさに自分は己の意志で"それ"を求め、創り出したのだと理解した。
忘れもしない17の歳、秋の気配が迫る晩夏の事だった。
伊予島
現役セレブサバゲーマー66歳。戦闘、は 、
家族仲は良かった。両親にいつも褒められた。
夫婦仲も良かった。いつだって夫は褒めてくれた。
主従仲は……貴方との旅は楽しかった。
雫
元裏社会住人の世話役55歳。非戦闘員。
家を嫌った。クソみたいな親族。
仕事仲間の事は好きだった。それなりに充実してた。
主従仲は……あんたとの旅は楽しかった。
が、渇く。
見え透いた言い訳を、一度、二度と優しく受け入れた。
"次こそ"と約束を取り付け、僅かばかりの猶予を与えてやった。
そうやって時間を稼いだ末に披露させた再度の戦闘は、
やはりと言うべきか、いまいち振るわない結果に落ち着くのだった。
当然だと雫は思う。
精神を病み、判断力を欠いた今の伊予島には、前回の戦闘を踏まえた"反省や改善"など意識すらできないだろう。
「信じれば出来る」「冷静になれば出来る」とただ自分に言い聞かせる事でそれを実現しようとしている。
更には焦燥とは別に、認知の歪みも肥大して来た。
恐らく伊予島の中では、ここ数時間の記憶すらも朧になって来ているだろう。
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雫 「………」 |
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伊予島 「…………」 |
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雫 「…そろそろ潮時かしらね」 |
その言葉に伊予島が飛び上がる。
血の気の引いた顔で必死に雫に縋り付いた。
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伊予島 「待って!違うの、本当はもっと!」 |
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雫 「何が違うの」 |
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雫 「待ったでしょう もう十分に待った 何も違わない」 |
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雫 「言った筈よ あたしは有能なボスが好きなの 無能は要らない」 |
ひどい茶番だ。
…息が詰まる。
だがその理由は敢えて追わない。…追ってはいけない気がする。
・・・
何故か息が詰まる
それでいい。
賽は既に投げてしまったのだから。
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伊予島 「………… でも……でも私……じゃあどうしたら…」 |
呆然と立ち竦む伊予島には、"慈悲"をもって誘導する。
眉を下げ、期待と共に上目に見つめる様は、まるで甘えているかのように。
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雫 「………他には?」 |
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伊予島 「え?」 |
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雫 「他には…無いの…? あたしが仕えるだけのメリット その価値」 |
…求めるように。
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伊予島 「………」 |
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伊予島 「………………」 |
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伊予島 「…………………………ある」 |
長い沈黙の末に一言、呟きの様な応えが返る。
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伊予島 「ある」 |
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伊予島 「あるわ!」 |
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伊予島 「あるあるあるあるあるあるある!ある!!」 |
それは呼び水の如く、伊予島の口に確たる返事をもたらす。
先程までの沈黙などまるで無かったかのような饒舌。
顔はみるみると歪んでゆき、強張った表情は歓喜にも焦燥にも取れた。
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伊予島 「私、子供がいるの!いっぱいいるの! ほら、雫ちゃんも会った事があるでしょう!?」 |
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伊予島 「みんな物凄く優秀なのよ? それにとても良い子達ばかり!私の自慢の子供達だわ!」 |
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伊予島 「ああ、そうね! 私の口から言うだけじゃ確かに信憑性がないわね?そうよねぇ!」 |
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伊予島 「待っていて、今あの子達とチャットを繋いであげる! 雫ちゃんにも改めて紹介してあげる!」 |
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伊予島 「お話すればきっと分かるわ! みんなとっても優秀でとっても有能でとっても凄いのよ!!」 |
Cross+Roseを立ち上げ、一心不乱にチャットを開く。
一つ、二つ、三つ、四つ
いくつもの画面の前で"我が子"に話しかけた。
普段からチャットを通して会話をしている"我が子"。
つい先程まで自分と練習試合を行っていた"我が子"。
取引や交流、このハザマで初めて出会った"我が子"。
以前、ほんの僅かな言葉を交わしただけの"我が子"。
その行動はまさに異常、奇行と呼ぶしかないのだが、それでも雫がそれを止める事はなかった。
その様子を静かに見つめ、時には会話に加わりもしながら、頭の中である一つの事を考えていた。
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雫 (…『トロフィーワイフ』とはよく言ったものだわ) |
トロフィーワイフ。
年収や地位の高い男が、己のステータスを誇示する為に娶った伴侶。
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雫 (伊予島鷹雄もそう、…あたしもそう) |
幼馴染らから聞き出した印象から察するに、
おそらく彼女の両親ですら"そう"だったのだろう。
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雫 (あんたはいつだって誰かのトロフィーワイフ …目に見える栄誉 それを形現すために必要とされてきた) |
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雫 ・・ 「…きっとあんたは、ずっとこうされて来たのね」 |
目に見えるものが全てなのだ。
「あれは自分の物だ」と他人に己の価値を示す事ができるもの、そういった存在を求められてきた。
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雫 「…そしていつしかあんた自身も、"そう"なってしまった あたしらような屑ばかりに搾取され過ぎて、……汚染されてしまった」 |
本来のそれは、もっと違うものだった筈だ。
もっと無垢で、もっと純粋で、真に真っ直ぐな要求だった。
己を認めて貰いたいという要求。
他人にも、
……自分自身にも。
他人に認めて貰うということ。
そしてその先の、自分で自分を認めるということ。
それは快楽なのだ。
己を誇るという快楽。
己を満たすという幸福。
真に己が満たされた時、おそらくそれ以上の幸福感など存在しないであろう、そんな領域。
そして、それが満たされない事による渇き。
そう、
渇くのだ。
時にそれは喉であり、時に舌であり。
時に眼球であり、時に胃で、皮膚で、脳が、心臓が、全身が、心が!
あの渇きの苦痛を自分はよく知っている。
満たしても満たしても足る事がない。渇きが癒えない。
あの渇きを満たす為に、ずっと何かを探しているのだ。
・・
だからその為にもまず、他人に認められなければならない。
認めさせなければならない。
それが出来てようやく、自分で自分を満たし"始める"ことが出来る、
…そんな気がするというのに!
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伊予島 「ほら!ほら見て!見て、雫ちゃん!!」 |
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雫 「…あたしにとってのトロフィーが"ボス"であるように、 あんたにとってのトロフィーが、"それ"なのね」 |
己の価値を証明するための王冠は、
伊予島が本当に欲しかったカンムリは、
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伊予島 「ねぇ見て!こんなに! こんなに素晴らしい子供達がいっぱいいるのよ!」 |
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伊予島 「全員よ!全員が私の子なの!」 |
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伊予島 「私が産んだのよ!」 |
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伊予島 「産めるのよ!私は!!」 |
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伊予島 「私が!!」 |
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伊予島 「私の!!!」 |
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雫 「…………あれ?」 |
ふと伊予島の頭に載ったままの王冠が目に入る。
"それ"を眺めながら、ぼんやりと考えた。
そもそも王冠と言えば、金銀宝石で作られた栄誉のしるしをそう呼ぶのではなかったか。
いくら質が良いとは言え、少なくとも敢えて木材で作るような代物ではなかった気がする。
何故自分は『すごい石材』で"あれ"を作らなかったのか。…素材は手元にあったのに。
デザインにしてもそうだ。
伊予島が望んだ通りに作製したとはいえ、何の疑問も持たずに"それ"を手配していた。
それはまるで針山。
"綺麗"でも"素敵"でも何でもない。
キラキラと輝きを放つ光沢など一切存在しない。
伊予島の頭部に戴く冠は、
まるで呪詛の如く蜷局(とぐろ)を巻いて其処に座している。
王冠と呼ぶにはあまりにも見窄(みすぼ)らしい、
荊の冠。
- KANMURI -
それでも君は不安なのだろう 形有る物を求めてしまうのは
形無きモノの証明として君が欲し、手にした物は
かつて君が求めた其れとは まるで違うというのに

[843 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[396 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[440 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[138 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[272 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[125 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[125 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[24 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
フレディオ
碧眼、ロマンスグレーの短髪。
彫りが深く、男前な老翁。
黒のライダースジャケットを身に着けている。
ミヨチン
茶色の瞳、桜色のロング巻き髪。
ハイパーサイキックパワーJK。
着崩し制服コーデ。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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フレディオ 「いよぉ!なるほどこう入んのか、ようやく使えそうだぜ。」 |
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ミヨチン 「にゃー!遊びに来たっすよぉ!!」 |
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エディアン 「にゃー!いらっしゃいませー!!」 |
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白南海 「毎度毎度うっせぇなぁ・・・いやこれ俺絶対この役向いてねぇわ。」 |
ロストのふたりがチャットに入り込んできた。
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ミヨチン 「・・・・・?おっさん誰?」 |
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フレディオ 「フレディオにゃー。ピッチピチ小娘も大好きにゃん!」 |
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ミヨチン 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・いやジョークだろジョーク、そんな反応すんなっつーの。」 |
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ミヨチン 「大好きなのは嬉しーけど、そのナリでにゃんは痛いっすよぉ! なんすかそれ口癖っすかぁ??まじウケるんですけど。」 |
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フレディオ 「え、あぁそっち?・・・ジョークだジョーク。」 |
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エディアン 「私はそっちじゃないほうですね。顔がいいだけに残念です。」 |
軽蔑の眼差しを向けるエディアン。
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白南海 「・・・別にいいだろーよ。若い女が好きな男なんてむしろ普通だ普通。」 |
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フレディオ 「おうおうそうだそうだ!話の分かる兄ちゃんがいて助かるわッ」 |
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フレディオ 「・・・っつーわけで、みんなで初めましてのハグしようや!!!!」 |
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ミヨチン 「ハグハグー!!」 |
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エディアン 「ダメダメやめなさいミヨちゃん、確実にろくでもないおっさんですよあれ。」 |
ミヨチンを制止する。
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フレディオ 「・・・ハグしたがってる者を止める権利がお前にはあるのか?」 |
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エディアン 「真面目な顔して何言ってんですかフレディオさ・・・・・フレディオ。おい。」 |
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白南海 「お堅いねぇ。ハグぐらいしてやりゃえぇでしょうに。」 |
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フレディオ 「そうだそうだ!枯れたおっさんのちょっとした願望・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・・・願望!?そうかその手が!!!!」 |
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エディアン 「ゼッッッッタイにやめてください。」 |
フレディオの胸倉をつかみ強く睨みつける!
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白南海 「そういえば聞きたかったんすけど、あんたらロストって一体どういう存在――」 |
――ザザッ
チャットが閉じられる――