
アスファルトを突き破った配管に鉄筋がむき出しになったビル郡。数時間歩いてもハザマのイバラシティは荒れ果てている。どこを見てもい気が滅入るようなそんな土地ばかりだ。
俺は瓦礫の山を鰐淵さんと探索しながら、いつかの莉稲の問いを何度も反芻していた。
「ねえねえ、わーくん。もしも、わたしが“あんじにてぃ”だったらどうする?」
今でこそこんな世界に来て否応なしにイバラシティの防衛なんてする羽目になっているが、聞かれた当時は与太話の一つに過ぎなかった問い。
侵略なんてまるで信じていなかった俺は、当時こう答えた。
「どうもしねェよ」
どうもしない、いつも通り。
そう言うのは簡単で、実際そのつもりでいた。想像力が働かなかった。考えることをしなかった。
けれど今もう一度その問答をしたなら、俺は同じ答えをすぐ返すことは出来ないだろう。
莉稲がもしも敵だったら。
それか、味方だとしてもアンジニティから来た協力者だったら。
Cross+Roseから得た情報を見る限りは、割り振られた陣営が同じだが、その出身や正体まではわからない。だって、彼女は歩けるはずのない自分の足で立っている。
友人だと思ってた人物が侵略者側だったり、出身があちら側でも味方してくれる存在なんてこの世界では当たり前にある。それが、もしも莉稲に適用されていたら。
二十年近く積もったあらゆる思い出がよくできた偽物だったと考えると、俺は途端恐ろしくなった。
形だけのデート。
触れるのを躊躇った桃色の頬。
彼女に贈られた小説。
高校生の少女達と訪れたバイト先。
昔隠れんぼした公園。
妹と思い込んだ幼少時代。
彼女のために拳を振るった喧嘩。
彼女と通い詰めた子どもの王国。
それから、詐欺師に転がり落ちて彼女と距離を取ろうとする俺。
そのすべてが実は世界に改変されたもので本来存在しないのだとしたら、冗談にしても酷すぎる。
「鰐淵さん、莉稲がもしアンジニティだったら……俺はどうしたらいい?」
とうとう内に秘めるのに耐えかねて、俺は鰐淵さんに悩みを零した。
「俺に聞くのかよ。それは所属か? それとも出身か?」
「……どっちも。だけど強いて言えば出身。莉稲が両足で立ってるのが、どうしても気になって」
このハザマという世界のシステムに組み込まれた時点で、まさかアンジニティの味方はできないだろう。だから、より気にしているのは不透明な出身の方だった。
仮に莉稲との記憶にもし別の答えがあるなら、俺が彼女のために動くことは筋違いではないのか。俺が大事に思っているものは、肝心の記憶が都合良く彼女に置き換えられたものなのではないか。
だとしても、今更彼女を突き放すことも出来ない。俺に取っては幼馴染の汐見莉稲で、彼女はイバラシティを守りたいと言っている善人なのだ。
それにもし莉稲が正体を隠したアンジニティの住民だとしたら、俺達イバラシティがこの戦争に勝利したとき別離が約束されることになる。それはつまりアンジニティへ彼女を送り返すということだ。
アンジニティは出口のない荒廃し切った世界だと聞いている。そこへ送り返すのは、俺たちの街を守るために力を力を貸してくれる彼女にあんまりな仕打ちではないか。
一度考え始めると彼女に纏わる悩みが湧いて止まらず、近くにあった小石を蹴り飛ばす。
それを見た鰐淵さんが俺の苦悩を察してか、鼻を鳴らして笑った。
「あの嬢ちゃんはやりたいようにやってる。お前もやりたいようにすりゃ良い」
なんて当たり前のように簡単に言うのだろう。こっちはやりたい方向を見失いかけてるから相談しているのだ。
「なンだよ、それ。最悪、俺が侵略者の方につくことになっても良いってのか?」
その気は無いが、仮定を問う。極端な話そういうレベルで迷っているのだと半ば当てつけのように鰐淵さんに尋ねた。
「気に食わねェが、ソレを本気で望むなら俺も地獄に落ちてやらァ」
言葉を失った。数時間前に悪事をしないよう貸しを作るなんて言っておきながら、あまりに無責任な発言だ。それでいて、まるで俺の傍にはずっといるみたいに。
「……なンでだよ。因幡うさ子は正義の味方じゃなかったのか?」
「捉え方の問題だジョー。ソレがお前の選んだ正義なら、地獄巡りでもなんでも付き合ってやらなくもないってこった」
この鮫には実のところ、拘った善悪感など無いのではないか?
そう疑いかけたとき、鰐淵さんが俺に問う。
「だがお前のやりたい事は違うハズだ」
きっぱりとこれまでの話を切り捨て、鰐淵さんは宙を泳いで俺の前方に回り込んだ。ぬいぐるみの目がこちらを見ている。……気がする。
「やりたい事って……どうしたらいいかもわかンねェのにそんな事」
「いいや、もっと簡単に考えなァ。渉、お前の夢見る都合のいい展開は何だ? ソイツをバカみたいに信じるのアリなんじゃねェの。だジョー」
「都合のいい展開……?」
都合のいい展開。莉稲に期待すること。手を伸ばしたい未来。思い描くことが無い訳じゃない。
「それは、……アリ、なのか?」
「ヘッヘ、良いじゃねェかソレで。景気づけだ。この場で宣誓しろ。お前のやりてェ事をこの俺が聞いてやるジョー」
ぶれていた根元が顕になった気がした。俺の中にある迷いが、少しづつ形を成していく。
俺はまっすぐ鰐淵さんを見て頷いた。
「俺は、莉稲を信じたい。だから、莉稲がやりたいこと──守りたいって気持ちも信じてやりたい。莉稲が何だったとしても」
──相手の意思を汲み取ること。気持ちを無視しないこと。
無数にある“大切にする”ことの定義、その一つの解。これに正解などはなく、俺も「傷つけず悲しませないこと」という違った答えを持っていたのだが。今は、街で会った軽妙洒脱な医師の出した答えに寄り添ってみることにした。
この選択が間違いだとしても、今の気持ちに嘘は無い。
「──俺は、莉稲の守るイバラシティを守る」
卯島渉は、因幡うさ子は、彼女のために戦うと決めた。

[843 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[396 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[440 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[138 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[272 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[125 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[125 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[24 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
フレディオ
碧眼、ロマンスグレーの短髪。
彫りが深く、男前な老翁。
黒のライダースジャケットを身に着けている。
ミヨチン
茶色の瞳、桜色のロング巻き髪。
ハイパーサイキックパワーJK。
着崩し制服コーデ。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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フレディオ 「いよぉ!なるほどこう入んのか、ようやく使えそうだぜ。」 |
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ミヨチン 「にゃー!遊びに来たっすよぉ!!」 |
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エディアン 「にゃー!いらっしゃいませー!!」 |
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白南海 「毎度毎度うっせぇなぁ・・・いやこれ俺絶対この役向いてねぇわ。」 |
ロストのふたりがチャットに入り込んできた。
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ミヨチン 「・・・・・?おっさん誰?」 |
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フレディオ 「フレディオにゃー。ピッチピチ小娘も大好きにゃん!」 |
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ミヨチン 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・いやジョークだろジョーク、そんな反応すんなっつーの。」 |
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ミヨチン 「大好きなのは嬉しーけど、そのナリでにゃんは痛いっすよぉ! なんすかそれ口癖っすかぁ??まじウケるんですけど。」 |
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フレディオ 「え、あぁそっち?・・・ジョークだジョーク。」 |
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エディアン 「私はそっちじゃないほうですね。顔がいいだけに残念です。」 |
軽蔑の眼差しを向けるエディアン。
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白南海 「・・・別にいいだろーよ。若い女が好きな男なんてむしろ普通だ普通。」 |
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フレディオ 「おうおうそうだそうだ!話の分かる兄ちゃんがいて助かるわッ」 |
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フレディオ 「・・・っつーわけで、みんなで初めましてのハグしようや!!!!」 |
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ミヨチン 「ハグハグー!!」 |
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エディアン 「ダメダメやめなさいミヨちゃん、確実にろくでもないおっさんですよあれ。」 |
ミヨチンを制止する。
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フレディオ 「・・・ハグしたがってる者を止める権利がお前にはあるのか?」 |
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エディアン 「真面目な顔して何言ってんですかフレディオさ・・・・・フレディオ。おい。」 |
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白南海 「お堅いねぇ。ハグぐらいしてやりゃえぇでしょうに。」 |
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フレディオ 「そうだそうだ!枯れたおっさんのちょっとした願望・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・・・願望!?そうかその手が!!!!」 |
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エディアン 「ゼッッッッタイにやめてください。」 |
フレディオの胸倉をつかみ強く睨みつける!
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白南海 「そういえば聞きたかったんすけど、あんたらロストって一体どういう存在――」 |
――ザザッ
チャットが閉じられる――