「ぐっぐぅ~~~」
「ほらほこちゃん、駄々捏ねないで、おれたちは鰻を倒さないといけないんですよ、協力しなくっちゃ」
「ぐぅ……」
「わかってます、わかってますって、ほこちゃんが斎さんのことが嫌いなのは。
たしかに斎さん性格適当ですし嘘もすぐ吐くしだらしないし見た目以外にいいところは殆ど無いですけど」
「なんでそんな悪口言われてるの私?」
それはハザマ世界に来てから11時間程経ったときの出来事だ。
Ⅻ. 荒廃した世界での一幕
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「も~斎さんの方からもほこちゃんと歩み寄ろうとしてくださいよ」 |
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「えー私は仲良くしてるつもりだけど」 |
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「ぐ!」 |
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「この前無意味にたくさん伸ばされたって怒ってますよ!」 |
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「布だしいいじゃん……命みたいに言ってることわかんないし」 |
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「言ってることわかんなくても万智花さんも一海さんもそんなことしてませんからね! ヒシュさんは……ちょっとあれですけど……」 |
今まで割と難なく守護者というものを倒してここまで来たが、突然出てきたぬるぬるとした鰻には歯が立たなかったのが三十分ぐらい前の話。
とりあえずはと作戦を練った結果、命に惹かれてほいほいと付いてきたが戦闘には全く参加してこなかった歩行軍手にスポットライトが当たったのだが。
どうやらこの歩行軍手は私のことが嫌いなようだから、命が言いつけたところで協力することに意欲的ではない、どころかぴょこぴょこと逃げて離れたところまで来てしまう始末。
呆れたように溜息を吐く姿を大変だなあと追いかけてきては眺めていたのだが、そうしていれば彼はぐいと手のそれをこちらに押し付けてきた。
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「は~……おれちょっと頼まれたもの買ってくるので。 その間ほこちゃんとちょっとでも親睦深めといてください、いじめないように」 |
というのはつまり、これは私がどうにかするべき問題であるらしい。
口を挟む隙も無く後ろ姿はどんどんと小さくなって見えなくなる。
戻る方向には他の仲間も居るだろうから危険こそないだろうけれど。
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「……行っちゃった」 |
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「ぐっぐ~~~」 |
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「ぐぅぐぅ元気だねえ、仲良くしろってさ、私はしてるんだけどなあ」 |
戻っても文句言われそうだし、立っているのも疲れるし、近くの岩に適当に腰を下ろした。
手から逃げようとする布っきれを少し強めの力で押さえつけていれば、足なんだか手なんだかよくわからない指をばたつかせているのでちょっと面白い。いや、軍手だからやっぱり手か?
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「あはは、変なの。 ……そうだ、君が私を避ける理由当ててあげよっか」 |
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「ぐ?」 |
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「気持ち悪いんだろ、私のこと」 |
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「ぐ!」 |
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「それは肯定だな、分かる」 |
返事は元気が良かった。これに嫌われて気持ち悪がられているところでどうとでもないので、何とも思わないが。
まあそれでも、あまり周りに迷惑をかけるのも宜しくは無い。
手に込めた力は緩めないまま、ぼんやりと見渡す。
変わらずずっと憂鬱な色を呈した空、向こうの世界でよく見慣れた、それでいて変わり果てた地形。頬を撫でる空気は幾度となく繰り返された戦いで澱んでいて、重苦しい。
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「……この世界さ~、居心地いいよね」 |
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「ぐぐ?」 |
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「ふふ、知ってる? あっちの世界では、人を傷つけるのって "わるい" ことなんだよ。 誰もその権利を持ち合わせていない、誰かを傷つけた人は "わるい" 人。」 |
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「……でもここで私たちに促されているのは陣取り合戦。 生きる居場所の奪い合い、ちょっとしたデスゲームってやつだ」 |
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「だからさ。 ここでは誰かを傷つけることこそが生き残る上で "ただしい" のであって。 傷つけられない弱者には敗北の道しか残されていない」 |
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「ね、……そういう世界って、すこし、息しやすい」 |
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「……ぐ、ぐぅ……」 |
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「引いてる? でも本音出さないと信用してくれないでしょ。 君分かってるよね、私がおかしいこと」 |
周りに誰も居ないのを把握した上で、幾らか本性をバラしてやる。
この布も役職的に名を与えるのなら謂わば"ヒーラー"だ。
違和感を感じるのだろう。近づきたくないし、仲良くしたくもない。
ならばその違和感は正しいと肯定してあげる。その上で。
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「でもね、ちゃんと約束するからさ。 私は、帰るための努力をする」 |
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「君が大好きな月守命を元の世界に戻すための。 ……私が、叶えてあげたい望みを果たすための」 |
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「──つまりは、そう。 裏切りはしないってこと。 アンジニティ、ちょっと気になるけど」 |
本当の言葉を幾分か伝えてやれば、どうだろう。
抵抗する力はいつの間にか無くなっていた。
底の無い虚無っぽい瞳が、まだ少し疑わし気にこちらを見つめている。
というわけで最後にもう一度、一押し。
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「裏切らない、約束する、だから手ぇ貸してくれない?」 |
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「…………ぐっぐ」 |
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「ん~何言ってるかわかんないけど、……ま、いいってことでいいよね」 |
これぐらいでいいだろうか。
力を借りたって勝てるかどうかは分からないが、まあそれはそれ。
先のことは先が来てからまた考えればいい。
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「いっしょにがんばろうね~ほこちゃん」 |
そう言ってむにいと布を伸ばせば、結局またぐぅぐぅと喚いているので面白いなあと思った。

[843 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[396 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[440 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[138 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[272 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[125 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[125 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[24 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
フレディオ
碧眼、ロマンスグレーの短髪。
彫りが深く、男前な老翁。
黒のライダースジャケットを身に着けている。
ミヨチン
茶色の瞳、桜色のロング巻き髪。
ハイパーサイキックパワーJK。
着崩し制服コーデ。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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フレディオ 「いよぉ!なるほどこう入んのか、ようやく使えそうだぜ。」 |
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ミヨチン 「にゃー!遊びに来たっすよぉ!!」 |
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エディアン 「にゃー!いらっしゃいませー!!」 |
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白南海 「毎度毎度うっせぇなぁ・・・いやこれ俺絶対この役向いてねぇわ。」 |
ロストのふたりがチャットに入り込んできた。
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ミヨチン 「・・・・・?おっさん誰?」 |
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フレディオ 「フレディオにゃー。ピッチピチ小娘も大好きにゃん!」 |
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ミヨチン 「・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・いやジョークだろジョーク、そんな反応すんなっつーの。」 |
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ミヨチン 「大好きなのは嬉しーけど、そのナリでにゃんは痛いっすよぉ! なんすかそれ口癖っすかぁ??まじウケるんですけど。」 |
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フレディオ 「え、あぁそっち?・・・ジョークだジョーク。」 |
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エディアン 「私はそっちじゃないほうですね。顔がいいだけに残念です。」 |
軽蔑の眼差しを向けるエディアン。
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白南海 「・・・別にいいだろーよ。若い女が好きな男なんてむしろ普通だ普通。」 |
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フレディオ 「おうおうそうだそうだ!話の分かる兄ちゃんがいて助かるわッ」 |
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フレディオ 「・・・っつーわけで、みんなで初めましてのハグしようや!!!!」 |
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ミヨチン 「ハグハグー!!」 |
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エディアン 「ダメダメやめなさいミヨちゃん、確実にろくでもないおっさんですよあれ。」 |
ミヨチンを制止する。
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フレディオ 「・・・ハグしたがってる者を止める権利がお前にはあるのか?」 |
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エディアン 「真面目な顔して何言ってんですかフレディオさ・・・・・フレディオ。おい。」 |
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白南海 「お堅いねぇ。ハグぐらいしてやりゃえぇでしょうに。」 |
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フレディオ 「そうだそうだ!枯れたおっさんのちょっとした願望・・・・・」 |
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フレディオ 「・・・・・願望!?そうかその手が!!!!」 |
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エディアン 「ゼッッッッタイにやめてください。」 |
フレディオの胸倉をつかみ強く睨みつける!
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白南海 「そういえば聞きたかったんすけど、あんたらロストって一体どういう存在――」 |
――ザザッ
チャットが閉じられる――