
少しずつ。
まるで牛の歩みのように僅かな前進ではあるものの、情報が集まりはじめている。
今の自分が知っていること、知らないことを確認しておきたい。
足を止めるのではなく、進んできた道を振り返るでもなく。
迷わず進み続けるためにも、今の居場所を知らないといけない。
少なくとも、そういう時間を持つことが必要だと判断した。
この先、自分自身さえ見失いかねないほどに状況が過熱しないとも限らないのだから。
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透 「まずは、えっと……」 |
参加者の顔ぶれから。
一つ目の陣営は、防衛側。私たちの世界で生きてきた人々。
イバラシティの市民の中でも、ごく一握りの人々がこの世界に招かれている。
対する陣営は、侵略側。否定の世界アンジニティから訪れた人々。
昼間の世界にも溶け込んでいて、一市民として誰かの家族や友達になっている。
私の恋人、白波白楽もそのひとり。
三つ目の陣営は、ゲームマスターと関係者。
ウォーゲームを企画した人と、システムの運営に協力している人々。
今のところ、タクシーのドライバーさんが一番の事情通。
メガネのお兄さんとお姉さんは雇われの身で、限られた情報しか知らされていないみたい。
最後の陣営は、ハザマに生きる人々。
ロストと呼ばれる個人の一群と、ナレハテという怪生物の群れ。
ゲームのスコアにあたる、世界影響力が低い参加者はナレハテになるという。
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透 「……………そして、それから…」 |
ドライバーさんの口にした一言が今でも引っかかっている。
今回の試合、という言葉は過去にも似たような「試合」が行われたことを仄めかしている。
私たちの喜びも悲しみも、テレビのリアリティーショーみたいに視聴されていて―――。
視聴者である誰かにとっては娯楽にすぎず、消費されるコンテンツであることも。
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透 「……………」 |
ああ。
私、怒ってるんだ。
生まれ育った世界のすべてが、知らない誰かのお遊びで壊されるかもしれない。
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透 「それはいいの」 |
この身も心も擦り切れて、私が私でなくなるかもしれない。
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透 「別にいい。いいけどさ」 |
白波白楽の運命が―――ほんとうの名前も知らない、あの子の運命が弄ばれている。
・・・・・・・
面白がっている人がいる。
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透 「………許せないよ。それだけはダメ」 |
これが試合だというのなら、全てが終わった後にはノーサイドで握手できるのかな。
スタジアムを出て、私たちの暮らすあの家に帰れるのかな。
今はまだ、情報が足りなくて余談が持てない。盤外の様子を知る術もなく。
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透 「しらくちゃん」 |
どんなに望みが薄くても、辛くても考え続けるの。
今の私にできることすべて、試して、選んで、進み続けるの。
この恋が私を動かし続ける。
世界を敵に回したとしても、不敵に笑える勇気をくれる。
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透 「何があっても、私は君の味方だよ」 |
シンキングタイム終了。
頭の整理は大事だよね。時々やってみようと思います。
今夜もそして、冒険が始まる。

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――