
【∞
廻
目】
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日記を書こうと思います。
誰にも気づかれなかった私が、確かに居たという証に。
誰にも読まれないと思いますが、誰にも伝わらないと思いますが。
感謝を、幸せを、ここに書き記します。
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現在時刻は朝の7時。少し眠いですが、頑張っておきないと。
とある事情で転校することになった私。今日から新しい学校生活です。
髪をとかし、制服に着替え、カバンを持ち。あ、ハンカチも忘れずに!
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リョウ 「はじめまして!よろしくおねがいします! お友達になっていただけると、うれしいです。」 |
ですが、教室は誰も気づいてくれません。私の挨拶は雑談にかき消されます。
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リョウ 「はじめまして!よろしくおねがいします!」 |
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リョウ 「お友達になっていただけると、うれしいです。」 |
私は、何度も、何度でも、何度だって話しかけます。
―寂しいのは、嫌なので。
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
書く。
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きっかけは何だったのでしょう?
今でもよくわかりません。
ただ、温かい何か。ほんの少しの優しい気持ちだったと思います。
あの時、あの場所。あの教室。
―私の運命は、大きく変わりました
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それは、黒板でした。
黒板に書かれた、数々の言葉。
いつも通りの日。
いつも通りの、誰からも気づかれない日常。
いつも通りの、寂しい日常は―――
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
書く書く。
あれから、沢山のことが起こりました。
まず、今でも信じられませんが、私、響さんとお話ができました。
あまり理解できないのですが『人の心にリンクする』という感じの異能だそうです。
つまり、私の心の中に響さんがいらっしゃってくださる能力です。
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十神さんのお誕生日。
私は買い物ができません。
唯一用意できたプレゼントは、私の異能で生み出した花束。
こんなものしか用意できない自分が情けないです。
お誕生日、おめでとうございます。
私を友達と呼んでくれてありがとうございます。
どうか、どうかこれからも私と友達でいてください―
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
書く書く書く。
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リョウ 「・・・・あぁ・・・」 |
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保健室、お悩み相談所。
前には無かったもの、違和感。
視線はあわないけど、前とは違うもの。
―机の上に、下向きの紫色の花がいっぱい咲いた植木鉢。
私だって女の子なのだ。きれいな花は好きだ。
鉢植えの下に、何やら紙きれ。
何か書いてある・・・花の名前かな?
『ストレプトカーパスって言うらしい。誰かが居るなら、居たなら、これはお前の花だ。
今決めた。代わりに育てるから、暇な時見に来いよ』
ぽつり、ぽつりと涙が落ちる。
きっと他の人からみたら、ただの水滴が落ちただけ。
だから、少しくらい泣き虫でもいいよねー?
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リョウ 「・・・先生、ありがとうございます。」 |
きちんとお辞儀。見えなくても、伝わらなくても、きっと意味はあるから。
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リョウ 「相談事、たくさんあるんです。お礼も、たくさん言いたいんです。 だから、もし、私が見えるようになったら、いっぱいお話ししてください。」 |
ああ、私はなんて幸せ者なんだろう―
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今日は2月13日。
明日はそう、バレンタインです。
一年で一番甘く、ロマンチックな日。
あいにく私は特定の方にお渡しする予定はありませんが・・・・
でも、渡したい相手はいます。
たくさん、います。
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リョウ 「喜んでくれると、うれしいな・・・」 |
優しいみんなに、あったかいみんなに、私を、見つけてくれた、あの人たちに―
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
書く書く書く書く。
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リョウ 「・・・・色んなことがあったなぁ・・・」 |
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☆リョウちんへ☆
新学期でクラスが替わる前に、
2-2のみんなでお花見することになったから
リョウちんもおいでー!
場所は髪長神社…初詣に行ったトコだから
わかると思うけど、いちおー地図入れとくね!
待ってるよー!
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リョウ 「わぁ!お花見!私も行っていいんですか!」 |
嬉しいです!とっても楽しそう!えと、何か持って行ったほうが良いのかな・・!
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進路の話がありました。
皆さんはどんな将来を描くのでしょうか。
私は・・・どうなるんでしょうか。
3年生になったら何をしましょうか。
きっとあまり変わらない毎日でしょう。
クラスのみんなと遊びにいきたいです。
海とかいいですね―――
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
ペンが、止まります。
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リョウ 「・・・・進路、か・・・」 |
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見たことない部活があります。スリル部?
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リョウ 「あの、ここ、どんな部活なのでしょうか・・・あの・・・」 |
うう、やっぱり誰も気づいてくれないです。
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思わず、叫んでしまいました。
だってすごくすっごく嬉しかったのですから!
私を見つけてくれようと、話してくれようとしてくれて・・・
迷惑なんて、ありえません!
貴方に伝えられる、唯一の手段。
すっと、お花がこぼれました。
私の好きな花。
『ストレプトカーパス』
その、花言葉を――どうか、貴方に伝わりますように。
ああ、私は。
―皆さんと一緒に部活をやりたいです。
みんなと、お友達になりたいんです。
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リョウ 「・・・・・・・・・」 |
書いて、書いて、書いて。
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リョウ 「・・・・私は、幸せだな。」 |
色んなことがありました。
楽しかったこと。
悲しかったこと。
寂しかったこと。
――みんなに、見つけて貰えたこと。
―私のことを友達と言ってくれた人がいました。
―私のことを大切に想ってくれるくれる人がいました。
―クラスの一員として迎えてくれました。
ずっとずっと、生きている時から欲しかったものは―――
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リョウ 「・・・・死んでから、気づくなんてなぁ・・・」 |
例え届かなくても。
例え聞こえなくても。
ほんの一歩、勇気を出して踏み出すだけで。
―――お友達に、なってください―――
すぐ近くに、こんなにも溢れていたのですね―――
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リョウ 「・・・たくさん、友達ができました。」 |
―――寂しかった―――
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リョウ 「・・・一人で、いましたから。」 |
―――悲しかった―――
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リョウ 「・・・誰にも気づいて貰えなかったから。」 |
―――辛かった―――
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リョウ 「・・・みんなの笑顔の中に、私はいなかったから。」 |
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リョウ 「・・・でも。」 |
―――もう―――
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リョウ 「・・・一人じゃない。」 |
―――もう―――
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リョウ 「・・・気づいた貰えた。」 |
―――もう―――
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リョウ 「私は、みんなと笑いあえるー!」 |
書いて、書いて、書いて。
私の気持ち、幸せな記憶。
思い浮かぶ、みんなの笑顔。
ああ、私はなんて幸せだったのでしょう。
書いて、書いて、書いて、書いて――――
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リョウ 「・・・『ありがとうございました』」 |
最後に感謝の言葉で締めくくり。
―――私は、ついに、日記を書き終わったのでした。