
【七戒目】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―叫んで、泣いて。
―踵を返して。
―惨めに、逃げ出して。
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リョウ 「・・・・・・・・・・・」 |
・・・・・・・ここはどこでしょうか。
走って、走って。
逃げて、逃げて。
気づいたときは、何処かの廃墟で座り込んでいました。
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リョウ 「・・・・・・・なんで。」 |
悲しい、つらい、さびしい。
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リョウ 「・・・私はここにいるのに――!」 |
私は、世界にすら忘れられてしまったのですね。
思えば色々とおかしいことだらけでした。
転んでも物音ひとつ立たないこと。
触っても誰にも気付かれないこと。
誰かに見られていると、音とか簡単なものを動かすことしかできないこと。
鏡や、写真に写らないこと。
そんなの『心霊現象』そのものじゃないですか。
何より、こんな状態では生きていくことすら出来ないじゃないですか―――
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リョウ 「・・・・・・おかあさん。」 |
おかあさん、元気かな。
泣いてないかな。
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リョウ 「・・・・・・お父さん。」 |
ごめんなさい、私は、もういないけど―――
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リョウ 「・・・・・・さびしい、なぁ」 |
あの子はちゃんと泣き止んだのでしょうか。
ちゃんと約束は守ってくれたのでしょうか。
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リョウ 「・・・・・・・・」 |
私はもう家族にすら泣いてもらえません。
私はもう世界にいてはいけない存在なのです。
いつの間にか、窓から月が見えます。
逃げて、逃げて、泣いて、叫んで。
随分と時間が経ってしまったようです。
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カラス 「・・・・・・」 |
窓からカラス1羽がこちらを見ています。
カラス・・・いえ、死神、ですね。
なんとなく、いえ、わかります。
あれは本当に、魂を導くものだと。
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リョウ 「・・・・・私を連れていくのですか?」 |
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カラス 「・・・・・・・・・」 |
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リョウ 「死にたくなんて、なかったです。」 |
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カラス 「・・・・・・・・・」 |
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リョウ 「・・・友だちと、一緒に生きていたかった・・・!」 |
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カラス 「・・・・強制は、しない。」 |
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リョウ 「・・・・・え?」 |
予想外の一言に顔を上げます。
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カラス 「死神とは、彷徨う死者を次の未来へ導く者。」 |
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カラス 「悲しき魂を次回は幸福になるべきと信じ、送り出す者」 |
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カラス 「だから、望まぬ者に強制は、しない。」 |
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リョウ 「・・・じゃ、じゃあ!私は!」 |
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カラス 「・・・だが。」 |
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カラス 「・・・魂は磨耗する。遠くない未来。お前は壊れる。」 |
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カラス 「大切なもの、大事だった人間、思い出、人格、全て壊れる。」 |
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カラス 「後に残るのは、恨み辛み妬みを振り撒く、形すら崩れた唯の悪霊だ。」 |
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カラス 「そうなってしまっては―――もう、助けられない。」 |
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リョウ 「・・・・・・・・・・・そんな。」 |
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カラス 「仮にそれがなかった所で。」 |
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カラス 「人は皆、生きて行く。」 |
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カラス 「そして、変わって行く。」 |
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カラス 「人は、変わらぬものを置いて行く。」 |
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カラス 「結婚や生活環境の変化、最終的には、死によって。」 |
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カラス 「変わらぬ者を置いて行く。」 |
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カラス 「・・・それは、辛い。寂しい。今よりも、もっと。」 |
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カラス 「・・・だから。」 |
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カラス 「・・・ヒトは、同じ時間に。」 |
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カラス 「・・・いきる、べきだ」 |
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リョウ 「・・・・・・・・・・・」 |
あぁ、分かってしまいました。
この死神さんはきっと優しいのでしょう。
何度も、何度も私のような方を見てきたのでしょう。
声に込められた願い、すがり付くような願い。
―――どうか、幸せになって欲しいと心から願う気持ち。
ああ、嫌だな、分かってしまいました。
これではますます私は誰を恨めば良いか分からなくなってしまうではないですか。
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リョウ 「・・・・だけど、怖いのです。」 |
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リョウ 「・・・・元々私は暗い子でした。」 |
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リョウ 「・・・・友だちなんて一人もいなくて。」 |
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リョウ 「・・・・初めてなのですよ。友だちが出来たのは。」 |
思い出します。
誰からも必要とされなかった学校。
話しかけることが出来ず、一人でいた毎日。
そこにいるのに、私がいるのに。
可笑しいですよね。あんなに見えるようになりたいと思ってたのに。
見えていても、今と何も変わらなかったのですから―――
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カラス 「・・・・・」 |
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リョウ 「・・・・私が消えたら。」 |
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リョウ 「・・・・きっと、世界から私のことも一緒に消えて。」 |
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リョウ 「せっかくできた友達の記憶からも消えてしまって。」 |
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リョウ 「全部なかったことになるのが、たまらなく怖いです・・・!」 |
涙が溢れます。
私が消えて。
全部が消えて。
私を友達と言ってくれた人が。
私を忘れて毎日を笑いあう姿を思い浮かべてしまって。
―寂しいです。寂しいんですー!
―駄目なのは分かってます!
―迷惑なのも、分かってるんです!
―でも、でも―――
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カラス 「・・・・・」 |
とさ。
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リョウ 「・・・・・え?」 |
落ちてきたのは一冊の古ぼけた――
何の変哲もない、ノート。
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カラス 「・・・・・ならば、書け。」 |
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カラス 「お前がそう望むのなら。」 |
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カラス 「なかったことに、したくないというのなら。」 |
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カラス 「書いて、世界に、お前がいたという証を残せ。」 |
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カラス 「お前が言う、『友だち』から貰ったもの、感じたもの。」 |
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カラス 「全てを、この世界に残せ。」 |
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リョウ 「・・・・あ・・・・」 |
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カラス 「・・・たとえお前が消えたとしても。」 |
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カラス 「これでお前がいた証は確かに残る。」 |
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カラス 「その証は、世界にゆっくり浸透して行き。」 |
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カラス 「・・・世界に残った記憶は、消えることはないだろう。」 |
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リョウ 「・・・・・・」 |
のろのろとノートを拾います。
何も書かれていない古びたノートは、なぜか、とても重い気がして。
―――
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リョウ 「・・・・・・書か、ないと。」 |
みんなから貰ったもの。
うれしかったこと。
たのしかったこと。
さびしかったこと。
掛け替えのない、日常――
全部なかったことになんて、出来ませんから――
・・・・戦おう。
自分の気持ちと。
今度こそ、逃げずに。
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リョウ 「・・・・・・・・」 |
大きく、深呼吸。
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リョウ 「・・・私は!みんなと一緒に、いたい!!!」 |
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リョウ 「思い出の中で良いから、一緒に居たい!!!」 |
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リョウ 「だから!私は!!!」 |
心の底から叫んで。涙を流して。
孤独に一人で。世界に向かって、宣言して。
ちっぽけで、なんの事件でもない。
―――だけど、絶対にやらないといけない。
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リョウ 「前へ、進みます!!!」 |
―――これは、世界に自分がいたことを残すだけの、私の戦いなのですから。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――
ENo.582
リョウ



【情報が全てアンロックされました】
至って普通の少女の霊。
笑顔が好き、お日様が好き、みんなが好き。
彼女は全てを忘れていました。
イバラシティにアンジニティがやってきた瞬間。
この世界の裏側。生と死のハザマ。ここではないどこか。
泣いている一人の小さなアンジニティに声をかけたのは、一人の少女。
事故によって今死に行く少女は願いました。
『私の存在を、あげます。だから、どうかお願いします。
どうか、私のお父さんとお母さんを救ってください。
私のために、泣いている二人を救ってください。』
アンジニティは少女の存在を奪い、少女になりました。
そして『娘を失った現実』から少女の親を救います。
そして少女は存在をなくし、消えるはずでした。
―でも、少女は消えません。
記憶、名前、人間関係、全てを失った少女。
世界から『いないもの』とされてしまった少女。
魂を天国に導く死神にすら、少女は見つけられなくなってしまいました。
彼女の姿は人の目には映りません。
彼女の声は人の耳には届きません。
世界から『いないもの』とされてしまったので。
そして彼女は彷徨います。自分のことが分からないので。
そして彼女は話しかけます。寂しいのは、いやなので。
特種環境下なら彼女は認識できるでしょう。
具体的には、本当の自分の姿を映す、ハザマ戦とかで。
彼女はやっと自分を認識してくれた人に歓喜し、交流を試みるでしょう。
そして攻撃をされ、戦いが終わり、また認識されなくなるのです。
『お友だちに、なりませんか?』
【彼女の日記】http://lisge.com/ib/talk.php?p=2074
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・相良伊橋高校 3-5在住(進級できました!)
・クラスメイトに発見され、ちょっとだけ日常に希望をもつ。
・好きなこと:友達の側にいること
・嫌いなこと:さびしいこと
・好きな食べ物:甘いもの
・嫌いな食べ物:納豆チョコ
・人に観測されていなければ、文字を描いたり料理をすることができる。
・何もないところから花を出すこともできる。
・寮にひとりぐらし
・ポスト経由で交流が取れる
・―ああ、私はもう、死んでいるのですね―
イバラシティにいる存在は、3種類。
イバラシティの住人と
アンジニティと
アンジニティに、存在を奪われたもの。
幽霊とは―
―他者との直接的な交流ができず
―誰かの観測状態の世界に干渉できず
―そして、自身の不都合、矛盾に無意識で意識を逸らすものである。
―ああ、私は一体、誰を恨めばよいのでしょう―
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【六本目】
※10更新程度で完走予定のキャラとなります。
】プロフール ハ コウシン の タ ビ ツイヵ サレ マ【

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449 PS
カミセイ区
P-1