
いつか誰かが立ち塞がって、行く手を遮るかもしれない。
旅をするのだと決めからには、そういうことだってあるかもしれない。
理屈ではわかっていた。
いつかはそう、立ち向かうことを余儀なくされるのだとわかっていた。
けれど、それがこんなにも早く。
こんなにも生々しく、生命の奪い合いをすることを意味するなんて。
知らなかった。おぼろげに、気付いてさえもいなかった。
閉ざされた箱庭で繰り広げられるウォーゲーム、その盤上に立たされていても、
私ひとりは争いから無縁でいられると思っていた。
想像力が及ばなかった。命を奪う覚悟もないまま、その時が来て。
私は――――。
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透 「………っ……はぁっ…はぁ……っ!!」 |
痛い。苦しい。助けて。許して。
そんな弱音を吐く余裕さえもなく、私は「それ」に立ち向かった。
人の言葉を話し、異質な重圧をまとって駆ける漆黒の牡鹿。
爛々とかがやく瞳は怒りに燃える噴火口のよう。
敵対するものすべてを駆逐すると思い定めた目をしていて。
―――どちらかが、死んでしまうまで止まらない。
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透 「……………………」 |
この手で命を奪わなければ、君の元までたどり着けない。
思い知らされる。疑いを差しはさむ余地さえもなく理解する。
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透 「………そっか。そう、なるよね」 |
見通しの甘さに乾いた笑いが出る。
みんなが巻き込まれても、自分だけは上手に立ち回れると考えていた。
どこか他人事のように思ってもいた、その傲慢さに。
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透 「君がいつか誰かに誓ったように、」 |
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透 「私にも大切な約束があるんだ」 |
たったひとりの私の恋人。君にもう一度出会うために。
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透 「どいてよっ!! 行かなきゃいけないの!」 |
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透 「しらくちゃんが言ったんだ」 |
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透 「待ってるって!!!」 |
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透 「ねえわかる???」 |
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透 「私を待っていてくれてるんだよ」 |
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透 「こんな訳わかんない世界で!!!」 |
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透 「きっとすごく大変な目にも遭ってて、辛いのに苦しいのに!!」 |
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透 「あの子は今も、私を待ってる!」 |
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透 「お願いだから邪魔をしないで……私、会いに行くの」 |
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透 「だから―――!」 |
ギラギラと燃える瞳に負けないように、肺をいっぱいに膨らませて声を張る。
ありったけの勇気を奮い立たせて、怖い顔をして睨み返す。
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透 「今から!!!!」 |
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透 「あなたを!!!!!!」 |
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透 「ぶっ飛ばします!!!!!!!!!!」 |
この恋が、前へ進めと駆り立てる。
踏みしめる道の最果てに、君の姿を思い描いて。
ゴウゴウと、嵐の夜の風音にも似て、いのちの燃える音が聞こえる。
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透 「好き、大好き。しらくちゃん―――しらくちゃんっ!!」 |
今夜もそして、冒険が始まる。

[787 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[347 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[301 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[75 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
画面の情報が揺らぎ消えたかと思うと突然チャットが開かれ、
時計台の前にいるドライバーさんが映し出された。
ドライバーさん
次元タクシーの運転手。
イメージされる「タクシー運転手」を合わせて整えたような容姿。初老くらいに見える。
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ドライバーさん 「・・・こんにちは皆さん。ハザマでの暮らしは充実していますか?」 |
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ドライバーさん 「私も今回の試合には大変愉しませていただいております。 こうして様子を見に来るくらいに・・・ですね。ありがとうございます。」 |
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ドライバーさん 「さて、皆さんに今後についてお伝えすることがございまして。 あとで驚かれてもと思い、参りました。」 |
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ドライバーさん 「まず、影響力の低い方々に向けて。 影響力が低い状態が続きますと、皆さんの形状に徐々に変化が現れます。」 |
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ドライバーさん 「ナレハテ――最初に皆さんが戦った相手ですね。 多くは最終的にはあのように、または別の形に変化する者もいるでしょう。」 |
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ドライバーさん 「そして試合に関しまして。 ある条件を満たすことで、決闘を避ける手段が一斉に失われます。避けている皆さんは、ご注意を。」 |
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ドライバーさん 「手短に、用件だけで申し訳ありませんが。皆さんに幸あらんことを――」 |
チャットが閉じられる――