ガルフ
偽島参加者。現在行方不明。なにかを探し求めていた。
ウーゴ
ゲスト。PL:藤本様
偽島参加者。武器商人。一時期、ガルフを雇っていた。
マイト
偽島参加者。元人間。魔術を極めて不老不死に至った悪魔(⇒『十字路の主』)。純粋な魔力の塊のようなもので、人形に魂ごと封じ込めている。現在とある船の艦長代理を務める。
ネル
六命表参加者。呪いを受け、白い肌を褐色、瞳を金色に変えたエルフの女性。故郷の森にかかった呪いと共に自身の呪いは解いた(⇒『錬金術の森は別れの森』)。錬金術の熟練者。マイトの乗る船に乗っている。
クリシュナ
一揆参加者。行方不明の妹(⇒『チャンディー』)を探している。放浪の戦士。妹の手がかりをつかんで、マイト達のもとに乗り込んできた。
チャンディー
六命裏参加者。クリシュナの妹。とある事情でアンジニティに堕とされた。姉と再会する、そのためにもアフロを助けねばならないらしい……なぜ?
わたし
チャンディーのイバラシティの姿。名前をそろそろ決めなければならない。作者は名前を考えるのが苦手なようだ。
Introduction
遥か昔の話。とある島に向かう途中の頃。
ガルフという男が船に乗っていた。
梟が頭上を旋回する船の上、時が来るのをただ待つのに飽きることはない。
水平線の彼方まで、波のうねりしか見えなくとも。
風が吹けば、世界が刻々と変化をしているのが判る気がする。
船首から遠くを眺めていたガルフに声をかけてきたのは、この船の持ち主だった。
名をウーゴという。武器商人では名の知れた男だ。
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ウーゴ 「船酔いでもしたのかね?」 |
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ガルフ 「いいや。気分は悪くない……待つのは慣れている」 |
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ウーゴ 「そうか? まあ話に付き合い給え。例えば、私が君をスカウトした理由、聞きたいかね?」 |
ガルフは肩をすくめるだけだ。
元からそれを話に来たのだろうか、ウーゴは構わず話を続けた。
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ウーゴ 「君のレポートを読んだ。軍の報告のやつだ」 |
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ガルフ 「軍の機密もあったものじゃないな。目につくほど良いのがあったかね」 |
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ウーゴ 「いいや。ショックを受けるほど酷かった」 |
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ガルフ 「……」 |
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ウーゴ 「レポートの内容は、被弾もせずに戦闘不能になる兵の多さについてだ。年端もいかぬ少女が銃の扱いを間違え手指を吹っ飛ばしたり、戦闘になる前に吐き気を催しヘルメット内で嘔吐し窒息しかけるのもあったな」 |
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ガルフ 「酷い話だ」 |
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ウーゴ 「降格覚悟だろう。こんなものをレポートにまとめて報告なんてのは」 |
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ガルフ 「確かにな。実際、やめている」 |
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ウーゴ 「拾ったのは私だ。この報告書を書いた人物は優秀だよ、恐らくは部下を思って書いたのだろう。現状をありのまま。不器用だが、尊敬に値する」 |
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ガルフ 「それが、理由か」 |
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ウーゴ 「不服かね」 |
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ガルフ 「いいや、高く買われたな」 |
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ウーゴ 「舐めないでくれ給えよ。これでも目利きの自負はある。相応の働きを期待する」 |
むかしむかしのお話。
Introduction end
Scene 1 とある船
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ネル 「準備はいい?」 |
エルフの女性は挑むように、紅の魔術師に告げた。
船の先に立って夜空の真ん中に浮かぶように。
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マイト 「……それは僕のセリフだと思うけど。一応確認するよ、方針は?」 |
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ネル 「即行で速攻。次の『ハザマ』ワールドシフト前に戻ってくる」 |
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マイト 「向こうで60分しかないよ、こっちは360分くらいあるけどね」 |
イバラシティのチャンディーを助けるのに、向こうの時間で60分。時間の流れは6倍速い。
大丈夫かなぁ。などと他人事のように掌をひらひらと虚空で泳がせながら。
魔術師は大魔術を謡い始める。魔力が船を満たして機関部が駆動する。
魔力をエンジンに船が動き出して、カタパルトから伸びる誘導灯に螺旋の魔力ゲートが編まれていく。
それを視ながら、エルフの女は声を一段階張り上げた。
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ネル 「リリース&キャッチで二回行くわ」 |
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マイト 「うぇ、ちょっとそれは」 |
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ネル 「できないとは言わせないわよ。貯めてた魔力吐き出しなさい!」 |
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クリシュナ 「やれやれー!」 |
パチンと、ゴム手袋をつけるように手袋をはめてエルフの女はにらみつける。
鬼気迫るほどの覚悟の声に、妹の立場が関わっている姉の方も反応した。
ちくしょう、こいつは分が悪い。
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マイト 「まったく、君が来てから計画が狂いっぱなしだ」 |
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クリシュナ 「ありがとう、誉め言葉と受け取っておくわ」 |
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マイト 「うわぁ、可愛くない。それじゃ、おっ始めようか」 |
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ネル 「エンゲージ」 |
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マイト 「エンゲージ」 |
お互いの左手を差し伸べる。薬指に魔術の輪を描いて。
ネルの指から緑の魔術が、マイトの指から赤い魔術が伸びて絡まり混ざって黄金の糸になる。
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ネル 「まず、一回目。行ってくる」 |
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マイト 「いってらっしゃい」 |
船のカタパルトにはスポーツカーがエンジンを温めて待っている。
華麗に、ネルはその操縦席に乗り込んでエンジンの回転を上げる。唸る。
タイヤのグリップが魔力をつかんで走り出す。カタパルトの先から、夜空の中へ。
その先は星明かりを反射する水面だ。水面に吸い込まれる前に、螺旋のゲートにドボンと身を投げるように落ちた。
マイトの指につながった糸がゲートの先へ伸びていく。
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クリシュナ 「なんか釣りみたい」 |
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マイト 「素直な感想どうも。さて、あとは待つだけってのも釣りっぽいね」 |
Scene 2 イバラシティ
稲妻の中に溶け込んでスポーツカーは空間を跳んでいく。
そんな心持でゲートは光に包まれていた。この行き先がどこへ続いているのか。
イバラシティへと続いていると信じるしかない。準備をして動き出したのだ、あとは軽やかに過去を手放せ。
イバラシティの街に実際に雷が落ちた。稲光轟音をまき散らして、道に炎の轍を残してスポーツカーは現れた。
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ネル 「流石。誤差もほとんどなし?」 |
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マイト 「もちろん。さて、彼女の場所も親御さんの場所も捕捉してるけど、どっちへ行く?」 |
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ネル 「決まっているわ」 |
耳元で聞こえる赤毛の魔術師の声を振り払うように髪を払うと、街を見回して。
軽快に車のハンドルを握ってアクセルを踏んだ。
Scene 3 イバラシティ
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おやじ 「俺に何を飲ませた……?」 |
震える声で体を抱くようにして倒れた初老の男。
その目の前でネルは、夢見るような妖艶な笑みを浮かべた後、唾棄した。
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ネル 「あなた、実の娘とお楽しみしてたんでしょう。ほんと下種ね」 |
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おやじ 「おまえ、あいつの……なんなんだ。家族の話だ他人が……それに、あいつは、悦んでいた」 |
男がそう言い捨てた瞬間、女の動きに短い悲鳴をあげた。
我慢できずに胸倉をつかみ上げる。綺麗な色づいた唇が歪んだ。
爪が折れそう。そんなの気にしてられなかったけれど。
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ネル 「実の娘を! 守ることもせずに! あなたは!」 |
殴りかかる勢いで、けれど手を放して踵を返す。
もう仕込みは終わった。彼は男として不能にしたのだから。
それでも、また怒りに任せて家庭内で暴力をふるう可能性はあったが。
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ネル 「……あんたなんか。私が殴る価値はないわ。さよなら」 |
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おやじ 「ま、まて!」 |
縋るような声を踵で踏みにじってネルはその場を後にした。
胸が気持ち悪さで灼ける。でも、これで終わりじゃない。
彼女が立ち上がらないと。
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ネル 「マイト!」 |
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マイト 「君に名前で呼ばれるのもいいね。癖になりそう」 |
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ネル 「そう? それじゃ沢山こき使ってあげるんだから。 ねぇマイト。戻してくれる、早く会いたいわ」 |
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マイト 「いやあ、堪らないねえ……そんな厳めしい顔じゃなければ、さ。引き上げるよ」 |
Scene 4 とある船
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クリシュナ 「おかえりー。さっすがぁ。これで一安心?」 |
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ネル 「なに言ってるの、二回目行くわよ。時間がないわ」 |
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クリシュナ 「え。でも暴漢は倒したんでしょ。もう」 |
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ネル 「このままだと、多分繰り返す。イバラの彼女自身が強くならないと」 |
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マイト 「確かにあまり時間がない。どうするんだい?」 |
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ネル 「そうね。時間がないなら、これしかないんじゃない」 |
Scene 5 イバラシティ
その日は最悪だった。思えば朝から最悪だったのだ。
父の機嫌が悪く、朝から暴行を受けた。
制服で隠せない位置に痣が残り、化粧で隠したけど、痛みは残る。
その所為か熱を帯びて、気怠く、呼吸が乱れていた。
身体は不調を訴えるが、これで保健室にいって痣でもばれようものなら。
怖くて、我慢した。耐えて、耐えて、耐えて。放課後まで耐えたのに。
そこで、なにか得体のしれない男たちに囲まれた。
足早に通り過ぎようとした足がもつれる、身体を掴まれて、震えた。
校舎裏に連れ出される。男の人数は四人。
髪を掴んで、顔を上向きにされる。ぎらついた欲望むき出しの男の顔。
知ってる。私知ってるよ。その顔。いやだ。いやだ。
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不良 「股開け。殴るぞ」 |
でも、殴られるのはもっと嫌だ。震える身体を抱きしめて。唇をかんだ。
その時――。
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ネル 「そこまでよ」 |
静かに、されど通る声が響いた。
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ネル 「手を放しなさい。ぶっ飛ばすわよ」 |
男たちが不意の闖入者に狼狽える以上の反応を示すのを、女は待たなかった。
踊るように蹴りかかると、地面に両手をついて陣を描いた。
ぼんっ、と男達の真下から大きなきのこが生えてきて、男たちの股間や顎をクリーンヒット!
勢い、わたしも弾かれる。その体を抱きとめて女は言った。
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ネル 「間一髪ね。はい、これ」 |
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少女 「これ……は?」 |
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ネル 「勇気のかけら」 |
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少女 「勇気……」 |
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ネル 「よく聞いて。いい? 嫌なことは嫌ってはっきりいいなさい」 |
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少女 「え……」 |
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ネル 「さっきも。嫌だったんでしょ。拒否しなさい。わかった?」 |
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少女 「……はい」 |
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ネル 「よし。私にできるのはここまで。それじゃね」 |
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少女 「あ、あの。待って、ください。あ、ありがとうございました!」 |
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ネル 「どういたしまして」 |
その女の人は、それだけ残して行ってしまいました。颯爽とスポーツカーに乗って。
残ったのは呻く男たちと、わたしだけ。あときのこ。あれは夢だったんでしょうか。
違います。勇気は、ここに残りました。
月光蝶作戦 発動中 開始時間 02020315