
『
何をじっとしている?』
瓦礫に腰かける私に"ハリハラ"が囁く。実際には私の口を通して喋っているのだから、端から見れば独り言にしか見えないだろう。
『
何故敵を滅ぼしに行かぬ?』
「『Cross+Rose』で確認した。この付近にイバラ陣営の人がいる……近くにアンジニティも。
接近してくるならここで迎え撃つ」
『
こちらから仕掛ければ良い。待つなど時間の無駄だ』
「駄目だ、来ないなら戦う必要はない。私はイバラの人たちを守れればそれで……」
『
怖いのだろう』
「何?」
その言葉にピクリと片眉が上がる。
『
わかっているだろう、この争いは互いの影響力の差によってつく。我々が敵を倒すほどにイバラシティ側の影響力が上がり、こちらの勝利が近づく。何故そうしない?
貴様は怖いのだ。曲がりなりにも同胞だった者たちを自らの意志で手にかけるのが。
だから"守る"などという迂遠な手を取る。そう理由付けをすれば、多少は罪悪感が薄れる故にな』
「ちが……!」
思わず立ち上がる。否定したかった、その言葉を。だが否定しきれなかった。それは紛れもなく”私達”から出た言葉だったから。
『
一度手を下せばもはや後には引けぬ。続けて手にかけるしかない……誰を殺すのが怖い?
あの鯨の娘か?自らを太陽などと嘯くとは身の程知らずよ。血の海に沈んだ故、日の光に焦がれたか』
「やめろ……」
『
それともあの鬼の娘か?血肉を喰らう欲はイバラにおいても隠せぬようだな。
あるいは、既に陰で喰らっておるか』
「やめろ……!」
『
あるいはあの人の形をした災厄か。哀れにもこちらではまともな自意識も持ち得ていないようだが。
いや、そちらの方がお前にとっては憂いなく手を下せるか?』
「私の記憶を覗き見るな!」
叫んだ。そんなことをせずともハリハラには伝わるが、それでも叫ばずにいられなかった。
『
いい加減にあの胡乱な夢から覚めるのだな。我々も、奴らもアンジニティの存在であり、あの街での出来事はワールドスワップとやらが改ざんした結果にすぎぬ。
このハザマでの姿こそが、あの侵略者共の本当の姿よ。否定されし世界に堕とされて尚欲望尽き果てぬ浅ましき存在よ。
そ奴らを殺すのに何の躊躇いがある?あの街に生きる本物の人間と、偽物の存在である侵略者。どちらを取るかなど明白であろう?』
「……偽物じゃ無い」
偽物なんかじゃない。あの時、あの場所で皆と語り、笑いあう日々は、偽物なんかじゃない。
なのに……ああ、何故戦わないといけないんだ。
何故……
『
さて、貴様の望み通りの展開がやってきたぞ』
気配を感じ、振り返る。
向かってきていた。アンジニティ。同胞であり、私たちの敵。
『なんでだ、なんで……」
『
さあ、我らが真の姿を現すのだ。そして』
「なんで、向かってくるんだ!」
『奴らを我らが炎の贄とせよ!』
空を黒き炎が埋め尽くし、白い太陽が浮かんだ。