
私の故郷は隠れ里のようなところだった。
そこは神獣見習いが転生繰り返しながら生活をする村だった。私たちは生まれてくるとき一枚羽衣を持って生まれてくる。
それは神獣見習いの証みたいなものでカミサマが一人一人にそれぞれ試練を出してそれを達成できると神獣へと昇格できる・・・らしい。
『らしい』と言うのも前世の記憶が引き継がれるわけではないし、そもそもカミサマの試練の内容も思い出せないから。
でもみんななぜかそういうものだってことはわかってはいたから、とりあえず真っ当に生活するように心掛けていた。
掟で許可なく村外へ出ることは禁止されていたけど私はそんな生活が退屈で、しょっちゅう抜け出しては怒られていた。
ある日、私は森で迷っていたあの子と出会った。
あの子は明るくて元気で太陽みたいに温かい子ですぐに仲良くなった。抜け出しては遊びに行くというよりあの子に会うために外出するようになっていた。
いっぱい遊んだ。川で魚を捕ったり、綺麗な花が咲いている場所に行ったり、美味しい木の実を食べたり。
いろんな話をした。外の世界のこと、あの子の村のこと。・・・・・・ホントは話しちゃ駄目だけど、私の村のこと、羽衣のこと。この子なら信じれると思った。
そのことを話すとあの子は少しびっくりしたみたいだったけど『うん、絶対に内緒にするね』と言ってくれた。
その話を聞いてあの子が教えてくれた。私の村のことはちょっとした伝説になっているらしい、なんでもこの羽衣を手にすると不老不死になれるとか。
もちろんこれはそんな都合のいいものではない。最初に言った通りこれはただの証。
私達神獣見習いが持つことで初めて意味がある、ほかの者にとってはただの綺麗な羽衣でしかないのだ。
あの頃は毎日が本当に、本当に、楽しかった。
だけど季節が一巡したころ、その楽しい時間は突然終わった。
私とあの子が一緒にいるところをどこかで見られてしまったのだろう。
その日は月の綺麗な夜だった。でもそんな夜空とは裏腹になぜか胸騒ぎがとまらなかった。
すごく、すごく嫌な予感がした、気のせいだと思いたかったけどあのこの顔が頭に浮かぶ。
村から出るのも禁止されていたのに勝手に外の村へ行くなんてもはやお説教で済むことじゃない。だけど、そんなことをどうでもよくなるくらいのだった。
あの子の家まで走った。あの子の家は知らなかったけど、あの子の匂いを辿るくらい簡単だった。
家に着いた。
あの子の匂いに混ざって
血のにおいがした。
勘違いであって欲しいと震える手で扉を開ける。
中には赤く染まったあの子とたぶん両親と思われる男女が横たわっていた。その近くには赤い液体がついたナイフを持った数人の男。そいつらの顔なんて覚えてないけど、私を、もっと言えば羽衣を着けているのを見たとき嬉々とした表情をしていたと思う。あの子はきっと最後まで私との約束を守ってくれたのだろう。
――――――内側から何か暗い黒いモノが湧き上がってくるのを感じた。
気づいたらあの子を抱えて外にいた。後ろで黒い炎がいっぱい上がっていたけどそんなことどうでもよかった。
かなしくて
かなしくて
ずっと
ずっと
泣いて
鳴いて。
それからどのくらい泣いただろう。
泣き疲れて涙も枯れた頃に羽衣と一緒にあの子を埋葬した。
人間のあの子には意味がないとわかっていたけど、そうせざるにはいられなかった。
またあの子に会いたかった。
それぐらい会いたかった。
その後は空っぽだった。
心に穴が開いてしまったかのように。
もうどこにもあの子もいない。
どんな理由があれこんなことをしては家にも帰れない。
当てもなく彷徨った。
その間、あの子を守れなかった不甲斐なさと自分と会ったことであの子を不幸にしてしまったという後悔で段々と心が陰っていった。
彷徨っていると、ときどきニンゲンに声を掛けられた。
煩わしかった。触れようとしてくる手を焼く、次に煩く騒ぐ喉も焼いて・・・いや面倒だ。全部焼いてしまおう。
そんなことを繰り返すうち、いつの間にかその矛先は人間という種族に向いた。
あの子に手を掛けたあいつらが、人間が憎い。憎い。憎い。憎い。
見つけたニンゲン、村、街。すべてを焼き払った。いつしか炎だけではなく"黒"は全身へ広がっていた。
あの子も人間だったのにそんなこともわからなくなっていた。
そんな炎と灰に塗れた旅路の果てに私は世界の掃き溜めへと飛ばされた。
アンジニティでは満足に人狩りも出来ない。ここでは駄目だ。ここから出なくては。
"我"が憎悪が燻り続けるところにそこにあの侵略の話だ。
やっと抜け出せるチャンスが来た、これに乗らない手はない。そう思った。
でも―――。
イバラシティで"あの子"にまた会えた。
この子はあの子だ。"私"に向けてくれる眩しい笑顔が私の心を光と温かさでいっぱいにしてくれる。
ハザマに移された時。あそこから抜け出したいとかそんなことはもうどうでもよくなってしまった。
私があの子を守るんだ。今度こそあの子には幸せになってほしい。
ただそれだけが頭に浮かんだ。
・・・・・だからごめんな。
「私はあちら側に付くよ」