(前回、画像を貼るのに失敗してしまったのでどうやって1回目の日記をあげようか考えてる!)
* * *
好きが増えるたびに息をするのが苦しくなる。
大事が増えるたびに心臓を動かすのが辛くなる。
食事がしたい。満たされたい。
そういうモノに生まれてしまったのだから、仕方がない。
「せんせい、」
せんせいとはじめて会った日のことは覚えていない。
ずっと子供のころから知っていた気もするし、ごく最近だったかもしれない。
覚えていないのだ。
せんせいは双子の兄姉とおなじくらいの年頃、20そこらののはずだ。
でも今より幼い姿が思い出せない。
おれが幼稚舎のころにせんせいに手を握ってもらった気がする。
でもせんせいがこの街に越してきたのは最近だった気がする。
ふしぎなひとなのだ。そして、なぜ、彼をせんせいと呼んだかもわからない。
たぶん、なまえをよんではいけないと教えられたからだと思う。
おれの記憶は不良品なのだ。
ただ、諭すように、何度も聞いた声だけは頭に焼き付いている。
『 妙名 蜜の名を手放すな 』
* * *
せんせいはおれの命綱だ。
甘い、チョコレートによく似たにおい。
おれのだいすきなにおい。
いつもそれを告げれば「お前は本当にチョコレートが好きだな」と返してくれる。
チョコレートが好きだからせんせいのにおいが好きなのか、
せんせいのにおいがチョコレートに似ているからチョコレートが好きなのか。
どちらでもいいことなのだけど。
「──それで、最近は不調はあるか」
煙草をもみ消しながら、聞いてくる。
せんせいの雑な問診はいつものことなので、真剣に聞かれるときのほうが怖い。
だいじょうぶと返事をすれば、短い相槌とともに手を差し出される。
それもいつものことなので、いつものようにお手をするように手を預ける。
手袋を外すのは診察のときと風呂場くらいだ。
せんせいの黒めの色の肌と比べるとやっぱりちがうのだなぁと突きつけられる気はしている。
冷たくて、白いだけの、異質な手だ。
これを見て触れたいと思うやつはいないだろうなと、思う。
預けた手からじんわりとせんせいの熱が溶けて流れてくる。
とても、あまくて、おいしい。
*
おれの異能は熱を吸収し、エネルギーとして消費することだ。
おれの身体は熱を消費することで臓器を動かすことができる。
エネルギーがなければ生きていられないのは普通のことだけど、
おれは食事からエネルギーへ変換するにも、呼吸するにも、心臓を動かすにも熱がいる。らしい。
熱が足りなければ臓器のいくつかは凍りついて強制的にコールドスリープになるし、
また怪我をすれば治そうと熱の消費が激しくなる。
異能があるから生きていられるのか、異能があるせいでそういう体質なのかはわからない。
おれの異能は完全にはOFFにすることができない。
出力を絞るまではできても、生命活動を維持する最低限は確保するように本能が動いているみたいだ。
まぁ、異能をOFFにするということは生命活動をOFFにするということだ。
成長そのものにも熱がいるのかもしれない。
わりと大柄な家系だということを考えると本来のスペックならもっと伸びていいはずだった。
でも成長期を賄うにはたぶん熱が足りなかったのだろう。
おれの身長はだいぶ前に伸びなくなってしまったし、声変わりすら起きなかった。
常に飢えている状態かつ、生命維持装置が外せない。
我ながら難儀な身体をしていると、よく思う。
*
せんせいの手に触れながら、診察が終わるのをじぃと待つ。
ゆるやかに流れ込んでくる熱は甘露で、もっともっと欲しいと思ってしまう。
耐えなきゃとわかっていても砂漠にいれば水に手を伸ばしたくなるだろう?
「・・・足りないならしっかり食っていけ」
「やった」
せんせいから“よし”の合図があれば問題ない。
ありがたく注いでくれる熱を食む。
心臓のあたりがいつもよりあたたかくて、鼓動が速くなるのを感じる。
五臓六腑に染み渡るというのはこのことだよなぁ、と嬉しくなる。
せんせいに言わせれば「飢えが辛いのはわかる」らしいから。
あと「お前に食い尽くされるほどおれの熱は大人しくない」そうだ。
好き勝手に熱を食べまくる癖がつかないように抑制はしてくれるけど、
基本的にはせんせいはとてもやさしいのだ。
空調の効いた部屋にいるのも、湯に浸かっているのも熱を食べることができて好きだけど、
生き物から直接もらう熱は、なぜかとてもおいしい。
きっと、命の味がするからだ。
「また、限界がくる前に食べに来い」
他所の命に手をつける前に。
せんせいは、おれがまだヒトとしてこの世界に混じるために、
完全なバケモノにならないように、繋いでいてくれる命綱なのだ。
せんせい。
せんせいはハザマにはいませんか。
せんせい、ハザマは身体の調子がいいです。
せんせい、おれはどこへ向かえばいいですか。
せんせい。
せんせい。
せんせい。
手がとても冷たいのです。
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